3. 36番力
青空には大きな白い雲が浮かんでいた。
海沿いの道路を車を運転しながら進んで行く。季節は夏だが、車のルーフにある窓を開けたままでいると風が入ってきて心地よかった。
──ポポン
助手席に置いていた四角い軽量型携帯電話が鳴り出した。
「せっかく良い気分なのになぁ、誰からだよ。全く!」
ライトフォンの表画面に名前が表示されている。
……失敗した依頼を頼んだ主からのようだ。
「ゲッ! やっぱりきたかぁ。まっいいや、出なければいいだけだからな」
──ポポン、ポポン、ポポン
中々切れない……これは相当怒っているのだろう。無理もない、本来は失敗したら詫び金を支払わなければならないからだ。特に今回は高い報酬金の依頼なだけに金額も桁違いである。だが、失敗した今の自分にそんな大金はない。
……ライトフォンが鳴り続ける。
鳴り続ける音に耐えきれなくなってきた自分はライトフォンの電源を切ってしまった。暫くは本部の中央依頼店に近付かない方がいいだろう。中央依頼店の表の依頼は各街や都市にある掲示板でも確認して受けることができる。
だが、裏の依頼を受ける場合は本部まで行かなければならない。
裏の依頼の中には盗み等の依頼もあり、受ける者も一定の実力がなければ受けられない依頼ばかりだった。依頼紙に本部の認証印がなければ引き受けたという証明にならない。依頼主達の元へ行き、直接依頼を引き受けようとしても信用がないので無意味である。信用がなくなれば……その依頼主からの依頼は二度と受けられなくなる。
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自分は五年前まで、盗賊達が憧れる有名な盗賊団の一つ"スールイティ団"の一員だった。子供の頃から盗みを働いていた所為か、盗賊としての腕がよく目を付けられていた。
そして、自分には普通の人にはない力がある。
女神から36番目に与えられた"番力"は、自分の瞳で物を見て、心の中で動けと命令するとその通りに動く力。
ただし、人間や生きている生物にはこの力は使えないようだ。
番力を使いながら自分は盗みを成功させていた。例としては、狙っている宝石がある部屋で警備員が大勢いる場合、36番力を使って部屋の隅の台に飾られている花瓶を割れば警備員達を音が鳴った方へ誘導することができる。その隙に、隠れている場所へ再び36番力を使い、宝石を転がせば自分が動かなくても盗めてしまう。自分の力を知っている者は少ないので、難しいと言われていた依頼もすぐに終わらせていた。
「上手くいっていたが……オレはスールイティを抜けた。ハハ、違うなクビになったが正解か」
任務で任せられた、ある物が盗めずに失敗してしまったからだ。