29. 噂
鼻の穴を大きく広げたままダラメットを見ていた。
急に立っていた人が消えた? まるでホラー映画のような話だ。自分はお化け等の類は信じていない。きっと興味本位で運転手が作り上げた嘘話なのだろう。
「アハハッ! その運転手、嘘ついてんだろ。そうやって怖い噂とか作る奴いるよなぁ〜」
笑いながら話す中、何故か三人は真顔で自分を見ていた。
実は、嘘でしたー! という言葉を期待していたのだが。
「……今は使われていないんすよ? 何で使われなくなったか……ザン兄貴なら、分かるんじゃないんすか」
「新しいのができたからだろ」
ロキョウは小さくため息をついていた。ロキョウの様子を見たミリは再び紙の束から何かを探し始める。さすが、中央依頼店の受付をやっているだけあって紙を捲る速さが尋常ではない。どうやらすぐに見つけたようだ。
ホチキスで留めてある三枚の古びた紙を取り出すとミリはロキョウに手渡した。
「ミリさん、ありがとう」
「いえ……」
自分の鋭い目はミリが小さな笑みを浮かべた瞬間を見逃さなかった。
〈んんん?〉
「兄貴、ほら前向くっす」
「ザンツィル、ここに書かれている発言内容は全てあのトンネル内を通った人達が体験した事らしい。つまり"何かを見たのは一人だけじゃない"んだよ」
三枚の紙をこちらに手渡してきたので受け取る。触ってみるとザラザラとした随分と古い紙のようだった。体験した事らしい、とロキョウが言っているとなると、この紙に文字を書いたのはロキョウではないのだろう。
「俯いている人が立っていた」
「慌てて降りて確認するが誰もいない」
「座っていた女性だった。背後から声が聞こえた」
確かに不可解な発言の内容ばかりが書かれている。トンネル内で急にいなくなることなど不可能だ。だが、自分にはすぐに奥に行ける方法を思いついていたので余裕だと感じていた。
……自分より前に受けた二組は何をしているのだろうか。
「そういえば、オレより前に受けた二組って誰なんですか?」
全く聞いたことのない名前の人達なら怖がって逃げ出してしまった可能性もある。だが、その場合は依頼書から除外される筈だが……。
「ああ、スールイティ団の一人とラグファミリーが受けているよ。ただ、彼らは最後に来る一組を待っているみたいだね。"みんなで行けば怖くない"作戦らしい」
スールイティ団がいることには驚いたが、まるで子供が考えるような作戦に少し引いていた。
「……お化け屋敷かよ。無理無理、苦手な奴らだわ。行くならオレ一人で十分」
だが、何故奥を見に行く必要があるのだろうか。使われなくなったのなら尚更行く必要はない筈だ。
「なぁ、何で奥なんて見に行かなきゃいけないんだよ? 放っておけばいいだけじゃねぇのか。こんな超高額の報酬金は有り難いけど」
ロキョウの目つきが鋭くなっていた。
「使われなくなってから三十年の間に……世界財産が隠されたという噂があるからだよ」




