23. ボールペン
──今だ!
審判のコインに向けて手を伸ばした。ロキョウはまだ目を閉じて微笑んだまま、ミリの方に顔を向けている。
自分が手を伸ばしているとも知らずに。
無心で何も考えず、ただ手を伸ばして審判のコインを取ればいいだけだ。何か考えてしまえばロキョウにバレてしまう。
何も考えてはいけない。
あと、少しで審判のコインに手が届く。
……そして、思ってしまった。
〈うっひょー! ラッキー!〉
「まだ盗れていないのにラッキーかい?」
「はい?」
読まれた? ロキョウは今審判のコインから手を離している筈なのだが。
ロキョウはボールペンを持つとペン先を上に向け、自分の手の甲に刺してきた。のめり込むと激痛と共に手の甲の中心部が真っ赤に腫れ始める。
「い、いってぇええええ!!!!」
ミリはもうため息をつくことなく、哀れんだ表情で資料を持ったままこちらを見ていた。
「まさかとは思いますけど、受付長の審判のコインを盗もうとしたのですか?」
「ハハ、まさか盗もうとしたなんてそんなことする筈ないですよね。ザンツィル」
ロキョウは笑顔で話してはいるが手の甲にのめり込んでいるボールペンをグリグリとしながら更に押し付けてくる。
「痛い痛い痛い痛い‼︎ やばいやばいやばい‼︎」
悲鳴を聞いて見て見ぬ振りをしていたダラメットが慌てて駆け寄って来た。
「やめろっす‼︎ ザン兄貴が痛がってるじゃないっすか‼︎ さすがに受付長だろうと俺も黙っちゃいられないっすよ‼︎」
「ダ、ダラお前、実は良い奴だったかもしれないんだな……ほんの少しだけ見直した!」
ロキョウはニッコリと微笑むと刺していたボールペンを放し、審判のコインをコインケースに戻した。
慌てて自分の手の甲に息を吹きかけて穴が空いていないか確認をする。
……大丈夫そうだ。
ミリはロキョウに一枚の紙を手渡した。
「君の仲間も出てきたね。ザンツィル、君の36番力は変わった力だね。君の力を見込んで一つ私から君に依頼を頼みたい」
中央依頼店の受付長から直々に依頼を頼んでくるなんて滅多にないことだ。
直々に頼んでくる場合、報奨金の金額はとんでもない額であり……依頼内容は必ず危険を伴う。
隣に座っていたダラメットは机を強く叩いた。
「受付長、悪りぃけど受けないっす。兄貴を殺すつもりっすか?」
「勝手に断わんなよ。で、その依頼の報奨金の金額はいくらなんですか?」
金額によっては今回の詫び金と車の修理代を一気に払えるかもしれない。
内容次第では受けようと考えていた。
多くのカジノで出禁になっている今、支払えるのなら何でもするべきだろう。




