2. 36のザンツィル
金貨が入った袋は沈んでいき姿が見えなくなっていった。
ジッと沈んでいく様子を見つめていた。自分はこのままどこへ向かえばいいのだろう。ふと、首にかけているネックレスのコインに視線を向けた。
「"審判のコイン"か……」
──遥か昔、この世界アミトレアを創造した女神は、広大なアミトレアの土地を自身が選んだ36人の人間に治めさせていた。それぞれ指定された場所で、36人は土地を開発し街を発展させていく。だが、突然36人は自身が優位に立とうとお互い戦い殺し合うようになる。怒った女神は36人を制裁すると、人間に失望しアミトレアを暗闇の世界へと変えていった。作物は育たず、争いは起き、人々の心は壊れていく……人類が滅亡するのも時間の問題だった。
だが、ある時、暗闇に覆われたアミトレアに一筋の光が差し込む。
何が起こったのかは分かっていないが、これは後に"女神が眠った日"と呼ばれた。
生き残っていた人々が、女神が各地に落としたとされる36枚のコインを"眠りの箱"に入れ封印していたのだ。
眠りの箱が女神を眠らせたのかもしれない。
人々はコインを"審判のコイン"と呼び、女神が起きた時、再び36人を選び36人の行動を見るだろうと予言した。
同じ事を繰り返さない為に、眠りの箱の封印は絶対に解いてはならない──。
「審判のコインの言い伝え。でも、誰かが箱を開けてしまった……まさか、オレが36に選ばれるなんてなぁ」
自分の首にかけている審判のコインは偽物だと言われて育ってきた。だが、このコインは本物の36番の審判のコインだ。
──幼い頃、見知らぬ女性に首にかけられたコインのネックレス。
顔はしっかり覚えてはいなかった。
「まぁ、オレが受け取るぐらいなんだから美人だったんだろうなぁ〜。だけど、あれが女神なら……封印なんてできねぇや」
自分は物凄く女性に甘い。男性だったら絶対に受け取らなかっただろうと今なら思えるが、幼い頃の自分はとても貧しく落ちていた物でさえも何でも売りにいっていた。左目の瞳の色が少し違うだけで気味悪がられ近寄る人もいない。コインをくれた女性は、自分の中で女神のように思えた。
サングラスをかけているのは、左目のオッドアイを隠す為。
「気味悪がられて依頼が受けられなくなったら困るしなぁ。しゃーないよなぁ」
海面を見つめたままゆっくりとサングラスを外す。
海面に映った左目の薄茶色と赤色の瞳。
「くそったれが」
海面に向けて石を投げると映っていた自分の顔は歪んでいた。
サングラスをかけて車を停めている場所へと戻り、エンジンをかけてハンドルを握った。
「他の選ばれた奴らが何しているのか、捜し出してみるか」