158. パニックザンツィル
今、"あなた"と言っていたのだろうか?
「えっ?」
欲しい物は何か聞いたのに、あなたというのはどういう意味なのだろう。
自分が欲しい……?
女性の言っている意味が分からない。もう一度聞いてみるべきだろう。
「すまん。もう一回欲しい物を言ってくれないか?」
もしかしたら、聞き間違いかもしれないと思い、先程よりもしっかりと耳全体をドアに付けた。もう絶対に聞き間違えないように、目を閉じて耳を澄ます。
「……」
何故か女性は喋らない。
どうしたのだろうか? 気になり顔を上げて窓を見た。
……女性の影が先程よりもドアの窓に近付いている。
〈ん? 動いたのか? 足音なんて聞こえなかったけど……もしかして、開けてくれるのか⁉︎〉
やっと気味が悪い部屋から出られると思うと、満面の笑みになっていた。ドアの前でうきうきな気分のまま開けてくれるのを待つ事にした。
〈早く、早く!〉
──クスクスクスクス
ドアの補助錠を開ける様子は無く、再び女性は笑い出していた。何故、笑っているのだろうか?
……何か変だ。
満面の笑みだった表情は真顔になっていた。旧五野八トンネルの件が脳裏をよぎった時に、何となく嫌な予感はしていたのだ。自分は、お化け等は信じてはいない。だが、旧五野八トンネルでの出来事があってから、いるんだと思い始めていた。
ドアの前にいる女性は……。
「……」
窓からは午後の明るい光が差し込んでいた。先程まで話していたのに、急に黙り込むと怪しまれてしまうだろうか。だが、これ以上話しかけてもいいのか分からず黙り込んでしまう。
「や、やっぱり開けなくていいかなー! そういえば、オレ……この部屋から逃げ出すなって言われてたんだよなぁあー!」
わざと大きい声で女性に聞こえるように話した。
ドアを開けてはいけない気がする。
「アナタ、アナタ、アナタ」
「……」
寒気と共に顔が真っ青になっていく。物凄く嫌な予感がする……。
──カチャ
女性はドアノブを回したようだ。補助錠に気付いていないのだろうか? ドアを開けようとするのならば、先に補助錠を外さないといけないのだが……。
〈よ、良かったぁあああ‼︎ 補助錠って素晴らしいなぁああ、おい‼︎〉
だが、やはり不安なので慌てて両手でドアノブを引っ張り、話しかけない事にした。無言でいれば、何処かへ行ってくれるかもしれない。
この建物はいったい、何に使われていたのだろうか。
──カチャカチャ
〈いやいやいや、開けなくていいって‼︎〉
──ガチャガチャガチャ!
女性はドアノブを激しく回している。
〈のぁぁあああああああ‼︎〉




