152. 気味が悪い部屋
ナノンがこちらを見るなら、自分も見返す。視線を逸らした方が怪しまれるかもしれないからだ。自分の返答を聞くと、ウルフは小さなため息をついた。
「まぁ、ヤングに質問をしても本当の事は話さないよな」
ライトフォンから焦っているジェネレーの声が聞こえてくる。
「アケリーが来たぞ。とりあえず、ザンベールは閉じ込めておいて早く来いよ! 外にいる保安雇人と警備員は合わせて約三十人、建物内にも友人を装った保安雇人と警備員は多数いるようだ。ウルフ、会場内に入ったら連絡してくれ」
「分かった。俺とナノンも直ぐに会場に向かう」
──ピーピー
どうやら、ウルフ達はデアの誕生日パーティーを開催する会場へと向かうようだ。ガメバ出身の有名なTBのメンバーが来るので、会場はガメバの街で一番大きな建物だろうと予想する。閉じ込めておいて、と言っていたので自分を連れて行くつもりはないのだろう。
「それじゃあ、そろそろ行くなの。今回の任務もさっさと終わらせるなの」
「そうだな。連れ去ったら"罪商人"に引き渡せばいいんだっけ? それが今回の依頼だったよな」
〈罪商人? って、確か……〉
噂程度でしか聞いた事はないが、罪商人と呼ばれる者達は罪を犯した者を買い、大金を支払うという取引を行っているらしい。重罪になる行為だが、保安雇人に見つかっていない罪商人は未だに多いという。
……だが、デアはまだお金を払っていないだけなので罪人になんてならない筈なのだが。
ウルフはやっと自分の右腕から足を退かした。痛みと青あざは酷くなっているが、動かす事は出来る。
〈骨は折れていないようだな。良かったぁ〜〉
右手を握ると腕に激痛が走るので、あまり重たい物等は持てないだろう。肘を突いて床から上半身を起こした。
辺りを再び見回してみる。
狭く薄暗い部屋で、隅には木の廃材やゴミ袋のような物が置かれている。何かの部屋と言うより、倉庫のようだ。
……だが、何か気味が悪い。
〈廃墟なのは分かるが、何の建物なんだ?〉
こんな部屋に閉じ込められても困るのだが……。
「それじゃあ、逃げ出したりするなよ。ヤング」
「放っておいていいなの?」
「ドア本体の鍵は壊れているが、補助錠は壊れていない。外からしか開けられないから大丈夫だろ」
ドアの外に取り付けられている鍵なのだろう。確かに内側からは絶対に開けられないとなると、逃げ出す事は難しいかもしれない。だが、急いで自分の車に戻って、審判のコインを持ち出しデアを助けに行かなければ。
デアにも何か払えない理由があるのかもしれない。
手首にかけられている手錠の鍵はウルフが持っている筈だ。手錠を外さないと手を広げられず、とても動きにくい。
「あのぅ、手錠外してくださいよぅ! 絶対に逃げ出したりしないからさ……ですぅ!」
ウルフは笑いながら、ドアの方へと歩き出した。
「ハハ! ヤングの言う事なんて信じられねえよ。大人しくして待っていれば殺さない。行くぞ、ナノン」
「はいなの。殺すかもしれないけどなの」
慌てて立ち上がり、ドアの方へと走る。
「ま、待ってくれぇぇええええ‼︎」
──ガチャ、ガチャン!
……間に合わなかった。




