142. 次のターゲット
口を開けたまま固まっていた。
聞き間違いでは無い……確かに今、ウルフはデアを連れ去ると言っていた筈だ。
〈待て待て待て‼︎ そんな事していいと思ってんのか⁉︎〉
TBのファンだから会いたいのかと思っていたのだが、どうやら違うようだ。もしかしたら、ウルフは相当危険な人物なのでは。
……だが、何故デアを連れ去ろうとしているのだろうか。
もう少し会話を聞いてみるべきだろう。再び耳を澄ました。
「ウルフ、分かっているなの? 絶対に失敗は許されないなの。楽勝とか言ってないできちんとやれなの」
どうやら"なの"が口癖のようだ。女の子がウルフと同じ組織の一員という事がどうしても信じられないが。
「分ーかってるって! で、デアの次のターゲットの名前も"ジェネレー"から聞いてるんだろ? 次は誰を狙うんだ?」
まだ、誰かを狙うつもりのようだ。
「ザンツィルっていう男なの」
「ザンツィル? 聞いた事ないな」
〈ザンツィル? へぇ〜、オレと同じ名前じゃん〉
小さく頷いた。他にもザンツィルという自分と同じ名前の人物が狙われているようだ。何をしたかは分からないが、こんな奴らに狙われるなんて可哀想にと思っていた。
「依頼してきた奴が言うには、"中央依頼店での依頼を失敗した際に払う詫び金2000万ゴルドを払っていない"から、強制的に払わせてほしいという事らしいなの」
「ははは、2000万はやべえって! 馬鹿だなぁそいつ、どんな依頼を受けてるんだよ」
〈んんんんんん? 何だか……オレに似てないか?〉
……自分ではないだろうか?
失敗した依頼の主がウルフ達に頼んだのだろうか。だとしたら、ウルフ達が所属している組織というのは保安雇人なのでは。
〈だけど、連れ去るとかそんな事はしない筈だ。でも、保安雇人じゃなければいったい何の組織なんだ?〉
よく分からないが、正体がバレる前に早く逃げ出した方が良いだろう。
今なら部屋に一つだけあるドアは開いている。
ウルフもライトフォンで会話に夢中になっているようだ。直ぐに立ち上がって走れば、逃げられるかもしれない。
〈オレの事かは分からないけど、審判のコインが無い今は逃げるしかないな〉
踵を上げた瞬間。
「ヤング、次動いたら本気で首を折るぞ」
「……」
ウルフは自分の首に手を当てている。
いつの間に横に……?
上げていた踵を下ろした。ウルフは、やはり只者では無い。目を見開いたまま、無言で再び座った。
〈本当にヤバいな、コイツは……〉
ライトフォンからナノンの声が聞こえてくる。
「あなた、"奪略商"に入るつもりあるなの?」




