141. ナノン
指を構えて立ち上がろうとした瞬間だった。
──ポポン、ポポン
「⁉︎」
ライトフォンの着信音が聞こえる。
自分のライトフォンが鳴っているのだろうか? だが、自分のライトフォンは壊れているので鳴る筈が無い。だとしたら、鳴っているのはウルフのライトフォンだろう。
ズボンのポケットからライトフォンを取り出し着信画面を見ると、真顔だったウルフの表情には笑みが浮かんでいた。
「あー、やっと着いたのか? ちょっと悪いな電話するから。あと、これ返しておくよ」
そう言うとウルフは立ち上がり、車のキーをこちらに向けて投げてきたので慌てて拾う。シュサヌから貰った錆びた小さな鍵もきちんとリングに付いていた。どうやら、取られてはいないようだ。
「あ、ありがとうございますぅ〜」
〈てめぇ、勝手にオレの車使いやがって‼︎〉
ここへ連れて来る為にウルフは勝手に自分の車を運転したのだろうか? だとしたら、ウルフの車はアケリーが運転したのだろう。36番の審判のコインについて話してこないところを見ると、車の中に隠してある事に気付いてはいないようだ。
〈良かった。バレたら絶対に盗られそうだからな〉
再び安心し、小さなため息をついた。
だが、ウルフは立ち上がってしまい逃げるチャンスを逃してしまったようだ……。
正直、目を潰す事を躊躇ってしまった自分がいた。先程、ウルフが自分の左目を見た瞬間に指で突けば良かったのだが、躊躇いからか会話をしてしまった。次のチャンスを見計らなければならなくなってしまい、座ったまま顔を下げて落ち込む。よく考えてみれば、20番力で目を鉄に変える事も出来るのではないだろうか。そうなると指で突いても意味が無いような気がするが。
〈いや、もう化け物じゃねぇか……。20番力もヤバいな。ロキョウもだけどヤバい奴ばっかだなぁ〉
半目になったまま、ウルフを見ていた。
目を閉じて耳を澄まし、ウルフが話す会話を聞く。
「あっ、"ナノン"? やっと着いたのか?」
「うん、なの。仲間にしたい奴って強くて盗みが上手い奴なの?」
「……強くはないと思うが、盗みは上手いんじゃねえかな〜。多分だけど」
「名前は聞いたなの?」
「それが本当の事を話さないんだよ」
「じゃあ、殺そうなの。ボスにそんな怪しい奴を紹介なんて出来ないなの」
驚いた表情で会話を聞いていた。仲間と言っていたが女の子のような声が聞こえる。
「まぁまぁ、そう言わずにさ。名前は聞いてみるからボスに伝えてくれよ」
「……分かったなの。ところで、デアの件は大丈夫そうなの?」
「ああ、友人であるアケリーに近付いて会場に入る為の招待状は手に入れてある。後は連れ去るだけだから楽勝だろう」
目を大きく見開いた。
〈はっ? 何言ってんだ、コイツ⁉︎〉




