6
一週間が過ぎた。
美空は相変わらず普通の高校生活を送っていた。
その間、百花についての手がかりは何も得られていなかった。もちろん自分なりに彼らの行方を探し回ってみた。放課後になると街を彷徨いてそれらしき姿を探そうとしてみた。しかし、まるで雲を掴むようなもので、さすがに美空もこのままずっとこの生活が続いたらどうしようかと少し不安になってきていた。なによりも父の期待に応えられないことが何よりも辛かった。
そんな時、その情報はもたらされた。
日曜の夕方、芽夢からの電話で呼び出され美空は駅ビルの一階にあるカフェへと急いだ。そこには御厨ミラノと芽夢の姿があった。二人がテーブルを挟んで向かい合っていると、どこか微妙な空気が漂っていて、そこに入り込んでいくのは少し勇気が必要に感じられた。
「どうしたの? 何かあった?」
そう言って芽夢の隣に座った美空に二人の視線が向けられる。
「彼女が何か重要な情報を持ってきてくれたそうです」
「重要な情報?」
「そうよ」
ミラノは少し誇らしそうな顔をしながら言った。
「それって何?」
そう訊いた美空に向かい、ミラノは拒否するように手をかざした。
「待って。その前に響君についてはどうなったの? それを先に聞かせてくれる?」
「それは……」
美空は口ごもった。草薙響についての情報をまだ何一つ持っていなかったからだ。もちろんそれについての情報収集は芽夢の役目なのだが、芽夢からは何も聞かされていない。もし、それを正直に伝えればミラノは情報を話してくれないかもしれない。
戸惑う美空に代わって、それに答えたのは芽夢だった。
「草薙響の失踪には一条家が絡んでいます」
「一条家が?」
大きいミラノの目がさらに大きく見開かれる。隣に座る美空も驚いて芽夢の顔を見つめた。何か新しい情報でもあったのだろうか。
「そう思われます」
「本当なの? あの家の人たち、知らないって言っていたわよ」
「そんなこと信じるのですか? 意外と素直なのですね。あの家の者たちが何も知らないなどあるわけがないでしょう。しかし、まだ確証は掴んでいません。ですから、迂闊な行動はとらないようにしてください」
「う、うん。わかった」
意外にもミラノは芽夢の言葉に素直に頷いた。
「ところで、あなた、私たちに何か黙っていることはありませんか?」
「何のこと?」
ミラノの表情が固くなる。
「先日、草薙響が失踪したことについて、何か知っていることはないかと聞きましたよね。あなたは何も知らないと答えました」
「……ええ」
「改めて聞きます。本当ですか?」
一呼吸してからミラノが答える。
「本当よ。どうしてそんなこと聞くの?」
「いえ、確認しておきたかっただけです。いずれにせよ、草薙響についての調査は今後も継続します。そのためにもあなたからの情報が必要なのです」
「私からの?」
「今、私たちが調べていることがあなたの知りたいことに通じていると考えていますから」
「わ、わかった」
ミラノはすぐにうなずいた。ツンケンした喋り方をしているが、根は素直なのかもしれない。
「では、さっそくですがあなたが持ってきた情報を話してもらえますか?」
「まあ、いいわ」
芽夢に促され、ミラノはカフェオレを一口飲んでから口を開いた。「以前、京都に住んでいた男の子がウチの学校の一年生に在籍しているの。名前は川北集人」
その名前を聞いて、美空はすぐに芽夢のほうへ視線を向けた。それを受けて、芽夢がすぐに鞄から一枚の紙を取り出した。
それは行方不明になった百花のメンバーの名前が書かれているものだ。
「川北隼人、たしかに彼は私たちが探していた一人です。よくわかりましたね」
「まあね」
ミラノは自慢するかのような顔で言った。
「あなた、川北集人と会ったのですか?」
「会ったっていうか、目にしたってほうが正しいかな」
「何かおかしなところがあったのですか?」
すぐにミラノは首を振った。
「別に。普通の子だった」
「では、なぜ彼のことを私たちに?」
「誰もその子のこと知らないから」
「どういう意味です?」
「誰かがね、あの子は誰だろうって言い出したの。もちろん下級生のことなんて知らないのは当たり前なんだけど。でも、どんなに知らない子だって誰かは知ってるものなのよ。ところがその子のことだけは誰も知らないの。この前、あなたたちが言っていた『異変』ってこういうことなのかなって思って」
「ちなみにそれを言い出した誰かとは誰です?」
「忘れた」
面倒くさそうにミラノは答えた。
「しかし、なぜ一年? 川北集人は今年2年になるはずですが」
「そんなこと私は知らないわよ。ダブったんじゃないの?」
「そうですか」
芽夢はそう言って、再び手に持っていたメモを折りたたんでポケットにしまう。
「それで? どうするの?」
「まずは会ってみましょうか」
「そうね、それがいいわ」
ミラノが相槌を打つ。だが、芽夢はそんなミラノに向かってキッパリと言った。
「あなたはここまでですよ」
「どうして?」
「これからの調査は私たちの仕事です。心配しなくても大丈夫です。草薙響についての情報が掴めたら必ずご報告しますから」
「でもーー」
「さあ、これで話は終わりです。あなたにお願いしているのは情報をもたらしてくれること。一緒に行動してくれることではないのです」
キッパリと芽夢は言った。これではさすがにミラノも言い返すことが出来ない。
不満そうな顔をしているミラノを無視するように芽夢は立ち上がった。