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ホールを出ると、美空たちは早足でロビーを抜けて外を出た。
暖かな日差しに思わず目を細める。
「どう思いますか?」
横を歩く芽夢が声をかける。
「だんだん暑くなってきたね」
「誰が天気の話をしているんですか」
「あれ? なんだっけ?」
「杉村美波ですよ。本気で言っているんですか」
「ああ、やっぱりその話ね。やっぱり美波さんは彼の近くにいるような気がする」
その言葉に芽夢が足を止める。
「どこかに姿が見えたのですか?」
「ううん、違う違う」
美空は振り返って慌てて首を振った。
「では、何か感じたのですか?」
「あ、いえ……そのへんは……よくわからないけど」
相変わらず芽夢は自分に特別な力があると考えているようだが、美空自身はそんなことをまるで思っていない。
「どうします? 強制的に杉村美波が姿を現すようにするしかないかもしれませんね」
芽夢は不敵に微笑んだ。
「何をするつもり?」
「そうですね。演奏会をぶっ壊すというのはどうでしょう?」
「どうしてそんなことを?」
美空はギョッとして聞き返した。
「杉村美波は彼の周囲にいるのでしょう? そして、幼馴染である彼の演奏会を楽しみにしている。違いますか?」
「……たぶん」
「なら、その井上達也の演奏会をぶっ壊そうとすれば、杉村美波は止めようとするのではありませんか?」
「ダメだよ、そんなことしたら迷惑かけるでしょ」
芽夢は冷めたような目で美空を見た。
「ま、あなたはそう言うでしょうね。しかし、それならばどうやって杉村美波を捜し出しますか? それとも、あなたになら見つけ出せますか?」
「それは……無理だけど」
「しかし、深見茂の姿は見ることが出来たのですよね」
「うん、でも、深見君と美波さんとでは意味が違うよ。深見君は別に姿を消したいと思っていたわけじゃないから」
「そういえば一つ気になっていることがあります。先日、深見茂を誘い出した時、私にも彼の存在を感じることが出来ました。霊力などない私がなぜ彼に気づくことが出来たのでしょうか?」
それは美空も気になっていたことだ。
「それは……私と一緒にいたからかも」
芽夢がどんな反応をするだろうかと気になりながらも美空は答えた。だが、芽夢は特別な反応は見せなかった。
「なるほど。あなたの影響ですか。それならわかります。ならば、やはり杉村美波を見つけ出すのはあなたの仕事ということになります。どうやって杉村美波を呼び出しますか?」
「呼び出す必要はないんじゃないかな。美波さんは常に彼の近くにいるような気がする」
「しかし、確認は出来なかったのでしょう?」
「だからって居ないとは言えないよ」
もちろん確信があるわけではない。だが、そんな気がしてならない。
「では、それをどう捕まえるんですか?」
「えっと……説得する」
美空の答えを聞き、芽夢は呆れたように背を向けて歩き出した。




