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翌日の放課後、芽夢に連れて行かれた喫茶店で待っていたのは自分たちと同じくらいの年齢の女子高生だった。
制服が美空たちのものとは違っている。どうやら他の高校の生徒のようだ。
少し青みがかった瞳の彼女は御厨ミラノと名乗った。陸奥中里高校の2年生だそうだ。その姿を見て、美空は子供の頃に母から買ってもらった人形を思い出した。フランス人形のようにスラリとした姿、そして、白い肌。きっとすれ違った十人中十人の男性が……いや、女性だって振り返るだろう。
「えっと……」
何から話を進めればいいのか、美空は迷いながら言葉を探した。子供の頃から人見知りで、初対面の人と話をするのは苦手だ。
だが、それよりも早くミラノのほうが口を開いた。
「あなたたち、人を探しているんですってね」
「え? ええ……まあ……」
いったい芽夢はどこまで彼女に話しているのだろう、と横に座る芽夢のほうへ視線を向ける。だが、芽夢は黙ったままでどこか面倒くさそうな表情をしたままコーヒーを飲んでいる。
困る美空にミラノはさらに話しかけた。
「私、草薙響君を探しているんです」
「草薙? え? それって誰?」
その言葉に美空が戸惑っていると、芽夢がやっと口を開けた。
「御厨さんのクラスメイトだそうです」
「それが私たちに何が関係あるの?」
ミラノの反応を気遣いながらも美空は芽夢に問いかけた。
「今年の2月以降、彼は姿を消しました」
「2月?」
それは百花のメンバーが消息を絶った時期と同じだ。その草薙響が行方不明になったことと関係があるということだろうか。
「あなたたちも誰か人を探しているって聞いたんだけど。それって草薙君と何か関係があるの?」
美空と芽夢の顔を見比べながらミラノが訊く。
「はい。あ……いや、関係があるかどうかはまだ……あの……その草薙さんって誰?」
「彼は一条家に住んでいた高校生です」
「一条家?」
芽夢の言葉を聞いて、やっと美空もその意味を理解した。
「昨日、あなたたち、一条家に行ったでしょ?」
少し咎めるかのようにミラノが言う。
「どうしてそれを?」
「たまたま見かけたのよ」
「たまたま?」
「運が良かったです。たまたま彼女が一条家の周りをうろついていてくれたので、この話を聞くことが出来ました」
少し意地悪そうな笑みを浮かべながら芽夢が言った。
「う、うろついてたわけじゃないわよ」
少し動揺しながらミラノが否定する……が、おそらくは草薙響を捜して一条家を見張っていたというところだろう。それを芽夢に気づかれたということか。
「まあ、そのへんはどうでもいいですよ。いずれにせよ、草薙響君の失踪と私たちの調査は関連がある可能性があります」
「それで? 探せるの?」
「それはわかりません」
芽夢に即答され、ミラノは少しムッとしたような顔になった。
「頼りないのね」
「私たちはその草薙さんという人を探しているわけではありませんからね。あなたのほうには心当たりはないのですか?」
「無いから困っているの」
「どこへ行ったかも? 誰か親しい人は?」
「わかんない。だからあなたたちの話にのったんでしょ。本当にあなたたちの探してる人たちと関係しているの?」
「あなたの話を聞く限り、どこかで私たちの探しものは交わるような気がします。何かあればすぐに連絡しますよ。あなたも何か情報があれば教えて下さい」
「わかった。それで? あなたたちが探してる人って誰なの?」
「昨日話したでしょう?」
「あなたたちの学校の行方不明の生徒だっけ?」
「そのとおりです」
「それだけの情報でどうやって探せっていうの?」
「あなたは情報など持たなくていいんです。無駄に情報を持てばむしろ見つけられるものも見つけられなくなります」
「じゃあ、私は何を根拠に探せばいいの?」
「異変です」
「異変?」
「普通とは違う存在。普通とは違う出来事。一条家の周辺で起きる異変こそがきっと彼らに繋がるのです」
「曖昧なのね」
「そのくらいでいいのです」
「わかった。それで? 今日はこれからどうするの?」
驚くほどにミラノはやる気を見せている。それほどまでに行方がわからない草薙響という人物を探し出したい気持ちが強いのだろう。
しかしーー
「何もしません。今日はウチのリーダーを紹介したかっただけです。今日の話はここまでです」
芽夢は一方的とも思える言い方で話を打ち切った。