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翌朝、美空は教室に入ってすぐに芳恵に声をかけた。
「ねえ、昨日の話だけど、防犯カメラで撮った映像、見せてもらえないかな?」
「え? どうしたの急に? やる気になったの?」
「いや……昨日はああ言ったけど、やっぱり少し気になってしまって。ダメ?」
やる気になったというより、芽夢からのプレッシャーにそうならざるをえないというのが正直なところだ。
「ダメじゃないけど……でも、何も映っていないよ」
「うん、それでもいい」
「どうして? 何か気づいたことでもあるの?」
「そうじゃないよ。ただ、一応見ておきたいだけ。ね、お願い」
「……わかった」
美空の態度の変化に驚いたのか、芳恵は少し戸惑っているように見えた。
その日の放課後、芳恵は美空を伴って、商店街の一角にやってきた。芳恵は一度、自宅に戻ってから改めてその商店街の一番奥にある雑居ビルへと向かった。
その1階が商店街の組合の事務所となっていた。
芳恵は親から預かってきた鍵で事務所のドアを開けて中へと入った。そして、手慣れた様子で一番奥の机の上に置かれたパソコンを起動した。
「芳恵さんはここによく来るの?」
「ウチは昔から米屋で、私が小学生の頃は組合会長をやってたこともあるの。だから、私も子供の頃からよく出入りしてたんだ。最近は商店街活性化のための青年部会なんてのも作ってるんだよ」
「それって芳恵さんも?」
「そうよ。いろいろ企画とか考えたりしてるんだけど、ぜんぜん上手くいかなくて」
「大変なんだね」
「今は皆、郊外の大型店やネットで買い物しちゃうから。何か売りがないとこんな小さな商店街になんて皆、来てもくれないのよ」
「そんなこと考えてるんだ。すごいな」
「生きていくためよ。私よりも美空ちゃんのほうがすごいよ」
「私?」
「親と離れて七不思議の解決なんてなかなか出来ないよ」
「いや……違うんだけど。ホント、誰がそんなことを?」
美空と会話をしながらも鈴里はパソコンを操作していく。美空はそんな芳恵の背後に立ってモニターを見つめた。
芳恵が開いたフォルダにはいくつもの映像データが残されていた。そのなかの一つのファイルの上で美空はマウスの矢印をクルリと回してみせた。
「これがこの前の」
「見せて」
美空の言葉を受けて、芳恵は6日前の日付がついたファイルの一つをクリックした。
映像再生ソフトが起動され、そのフレームに商店街の一画が映し出される。
多くの店がシャッターを下ろした夜9時から録画が始まっている。そのため、通りは既に薄暗い。時折、通行人の姿も見えるが、ほとんどが何も起こらない時間が流れていく。
芳恵は早送りしようとしたが、美空はそれを止めさせた。芳恵たちが見落としている何かがそこに映っているのではないかと考えたからだ。
美空はジッと何も起こらないその映像を見つめ続けた。芳恵は退屈そうに隣に座ってスマホを触っている。やがて2時間が過ぎ、映像の時刻が深夜0時を回った時、美空の予想は現実のものとなった。
思わず小さくアッと声が漏れる。
「どうしたの?」
芳恵が横から一緒になってパソコンの画面を覗き込む。
美空は背筋が寒くなるのを感じた。
なぜなら、そこに半分透きとおった人の姿が見えたからだ。そして、それは間違いなく芳恵の目には映っていないようだった。




