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それはあまりに唐突過ぎて、一瞬、美空はどう反応していいかわからなかった。いつもは何があっても冷静な芽夢までもギョッとした顔で田代を見つめている。
「ごめんごめん、驚かせちゃったみたいだね」
「先生、どうして?」
「ただの偶然だよ。コーヒーを飲んでいたらキミたちがやってきた」
「そんなはずがありません。私がこの店に入った時には誰もいなかったはずです」
すぐに芽夢が指摘する。
「あれ? そうかい? 確かにボクのほうが後だったかもしれない。でも、ボクは普通にコーヒーを飲んでいただけだよ。そこに日ノ本さんが来て二人が話し始めた」
そう言いながら田代は美空の隣に座った。
「聞いていたのですか?」と芽夢が睨む。
「つい面白くてね」
「何者ですか?」
「塾で講師をしている。日ノ本さんとは先日話しをさせてもらったんだ」
「浜本房子さんの先生らしいの」
美空が補足するように言った。
「盗み聞きなんて教師のやることではありませんね」
芽夢は警戒を解くことなく言った。
「まあまあ。それよりもさっきの話だよ」
一向に気にしていない素振りで田代は言った。
「さっきの話?」
「杉本美波さんっていう人の願いのことだよ」
「あなたに話すようなことではありません」
「冷たいな。隠す必要はないだろう。ボクはキミたちのことを知ったうえで協力したいと思っているんだよ」
「私たちのことを知っている?」
「キミたちは桔梗学園の生徒で、行方不明になった仲間たちを探しにきているんだろ? その一人が杉村美波さん」
「協力? あなたに何が出来るのですか?」
「キミたちの話を聞くことが出来る」
「それが協力になるのですか?」
「それが不思議なものでね、詳しい事情を知らない人と話をすると自ずと答えが見えることがあるものだよ」
「話になりませんね」
「まあまあ。それじゃ一つヒントをあげるよ。問題に行き詰まったときは原点に帰ることだ」
「原点?」
「そうだよ。人には皆、原点がある。自分自身の原点。ちなみに人としての原点は何だろうね?」
「……人の命?」
思わず美空は呟いた。
美空の言葉に田代は待っていたかのようにニッコリと笑った。
「キミにとってはそれが原点なんだね。確かに人生の中で、大切な人を、生命を失うことほど悲しいことはない。誰だって死者を蘇らせたいと願うはずだ。しかし、それは出来ない。天才と言われた霊能力者がいた。彼は恋人を失い、返魂法の研究に没頭し、その結果、研究に失敗して亡くなった」
まるで言い聞かせるように田代は美空に向かって語った。
「話の方向がズレていませんか?」
芽夢が冷静に指摘する。
「ああ、そうだった。今はキミたちが探している杉村美波さんという人のことだった。では、彼女の原点は? 人には必ず人生を決める原点がある。それを見つけ出すことが彼女を見つけ出すことなんじゃないかい?」
「先生は何か知っているんですか?」
「いやいや、ボクはただキミたちの話から思いついたことを言ってみただけだよ」
そう言って田代はもう一度ニッコリと笑ってみせた。




