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妖かし探訪記  作者: けせらせら
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 西の空が赤く染まっている。

 美空たちは一条家を出て、アパートへと向かって歩いていた。

 芽夢は屋敷を出てからずっと黙ったままだ。真っ直ぐに正面を見据えたまま、足早にスタスタと前を歩いていく。

 いったい何を考えているのだろう。

 その背に向かって美空はおそるおそる声をかけた。

「ねえ、事を荒立てるようなことしないでよ」

 その言葉に、芽夢はピタリと足を止めた。

「荒立てる? 私が? そんなことをするつもりはありませんよ」

 てっきり怒っていると思ったが、振り返った芽夢の表情はさほど感情的になっているようには見えない。

「どうしてあんなこと言ったの? 百花については秘密にすることになっていたでしょ」

「どうせ一条家は気づいていますよ。それを知らないふりをして受け入れているだけです。あまりに白々しかったので隠すのがバカバカしくなりました」

「栢野さんが嘘をついているって証拠はないでしょ?」

「何言っているんですか。彼女はハッキリと言ったではありませんか?」

「何を?」

「私は『行方不明の学生』とだけ言いました。しかし、彼女は『その人たち』と言いました。つまり行方不明になっているのが複数であることを知っているということです」

「それじゃ……わざとあんな言い方を? 綾女さんはそれに引っかかったってこと?」

「引っかかった? それならまだ可愛いものです。あの女はそれを見透かしてあえてそう言ったんです。まったくもって不愉快です」

「そんなのわからないでしょ」

「あれはそんな罠に引っかかる女じゃありません」

 芽夢は確信しているようだった。

「だからって、あんなふうに食って掛かるような言い方。花守さんだって一条家に気に入られなきゃ、将来、雇ってもらえないんじゃないの?」

「そんなことあの女は何も気になどしていませんよ。知っていますか? 面接試験で大切なのは相手の印象に残ることなのですよ」

「それじゃ、わざと? 本気で将来、一条家で働くつもりで?」

「そんなわけないでしょう。そもそも秘書一人に気に入られたからといって、一条家に入り込めるほど簡単ではありませんよ。そんなことより、あなたはどう思います?」

「どうって言われても……」

「あの話を信じるというんですか? 一条家が本当に百花のことを知らないと? 妖かしの一族が昔話だと? 京から下った立場だったとしても、そんな甘いことでこの陸奥を統括してこれるはずないじゃありませんか」

「まあ……そうだけど」

 芽夢の言っていることも少しは理解出来る。

「しっかりしてくださいよ。あなたがリーダーなんですよ」

「リーダー? 私が?」

 美空は目を丸くした。

「そうです」

「リーダーって……私達二人だけなんだからそんな堅苦しい言い方しないでよ」

「二人であっても、三人であっても、たとえ一人であったとしてもリーダーはリーダーです」

「別に私がリーダーって言われたわけじゃない」

「いいえ、私はあなたをサポートするように事務局長から指示を受けています。ですから、あなたがリーダーです」

「花守さんがリーダーでも良いんだけど……どうして私がリーダーなの?」

「私は陰陽師としての霊力はありませんからね。それとも役割を交換しますか? あなたが情報収集をされますか?」

 芽夢は意地悪そうな視線を美空に向けた。

「いえ……そんなこと私には出来ない」

 少し悔しいが、それは認めるしかない。

「では、諦めてください」

 芽夢は冷たく言い放った。

「でも、これからどうしたらいいんだろ?」

 ふと綾女の言葉を思い出した。「そういえば月下薫流って誰なんだろう?」

「隣のクラスの生徒です」

 芽夢が即答する。「私たちと同じ転校生ですよ」

「花守さん、知っていたの?」

「調べました。それが私の仕事ですから」

当然とばかりに芽夢は言った。

「どうしてそんなこと調べたの?」

「同じ時期の転校生ですよ。怪しむのが普通です」

「それで何がわかったの?」

「学校のデータに記録されていることはわかりました。彼は京都新谷高校からの転校生です」

「それってウチの学校の近くの?」

「そうです。しかし、彼の経歴は嘘です。京都新谷高校に彼の記録はありませんでした」

「そんな嘘って通用するものなの?」

「普通は無理でしょう。その嘘がとおっていることがおかしいのです」

「どういうこと?」

「彼に何らかの秘密があるということです」

「じゃあーー」

「月下薫流に話を聞くなんて言わないでくださいよ」

 美空の心を読んだかのように芽夢は言った。

「ダメなの?」

「何を聞くというんですか?」

「じゃあ、どうするの? 調べてもわからなかったんでしょ?」

「彼の動向を注視するというくらいです。そちらは私に任せてください」

 芽夢は当たり前のように言った。自信を持っているようなその顔に、美空はただ従うしかなかった。

「……わかった」

「ああ、そうだ」

 と何かを思いついたかのように芽夢は言った。「私はちょっと用事を思い出しました。先に帰っていてください」

 芽夢はそう言うと、美空の返事を待つこともせず、今来た道を引き返していった。

 美空は小さくため息をついて再び歩き出した。

 これから先が思いやられる。


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