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翌日、花守芽夢は予告したとおり学校を休んだ。
きっと高木文枝について調査するために京都へ向かったのだろうと美空は考えていた。
美空は早退して再び川北集人に会うために市立病院に向かうことにした。芽夢のような調査能力は自分にはないが、それでも自分に出来ることをしておきたかった。
昨日の今日では、新たな情報を得ることは難しいかもしれないが、少しでも思い出したことがあるかもしれない。
結局、その考えは空回りに終わった。
隼人は何も思い出せないことを申し訳無さそうに謝った。しかし、美空は少しホッとしていた。集人の様子が昨日よりずっと明るくなっていたからだ。今回のことも自分からいろいろ協力したいと言ってくれた。何が集人を変えたのかはわからないが、美空はその変化を嬉しく感じた。
病院の正面玄関を出た時、ふとすれ違った女性の顔に気づいて振り返った。その女性の方も同じように感じたらしく、二人は振り返りながら顔を見合わせることになった。
それは川北集人の母親の奈津子だった。
「えっと、あなたは確かーー」
「日ノ本美空です。どうしてここに? もしかして……」
「ええ、集人のところに」
「どうして?」
奈津子は今回のことをまったく知らないはずだ。
「花守さんって言ったかしら。あなたのお友達ですよね? 昨夜、訪ねてきてくれたの」
「それじゃ隼人君のことーー」
「教えてもらったわ」
それを聞いて美空は少しだけホッとした。そして、同時に芽夢が奈津子に連絡を取っていたことに驚いていた。
「それで見舞いに? じゃあ、まだ会ってないんですか?」
「ううん、昨夜も一度来たのよ。夜中だったから少しの時間だったけど。栢野さんって人が手配してくれたの」
「綾女さんが?」
意外な気がした。芽夢と綾女が二人で奈津子に伝えることを決めたのだろうか。「綾女さんは今度のこと何か言ってましたか?」
「話してもらった。まさか一緒に暮らしてたなんて……驚いた。今でもちょっと信じられないけど、でも本当のことなんですよね」
「そのこと、覚えてはいないんですよね?」
「うん、でも改めて家の中を見てみると、確かにずっと隼人が暮らしてた跡があるんだよね。そんなことにも気づけないなんてね。怒られても仕方ないわ」
「怒られた?」
「ええ。花守さんにも怒られました。子供のために親の人生を犠牲にする必要はないけれど、それでも子供の気持ちにちゃんと気づくべきだってね」
「花守さんがですか?」
それもまた意外だった。「何か失礼なことでも言ったんじゃありませんか?」
「言われても仕方ないわ。それに今度のことは親の責任であることは間違いないって私も思うから。きっと隼人にはこうすることしか出来なかったんだと思う」
「集人君には何か話したんですか?」
「何も」
「何も?」
「花守さんにもそう言われたの。今回のことは何も言わないほうがいいって。言葉で語るよりも、行動で示すべきだって。それに隼人が話したくなったら、その時に聞いてあげればいいって。確かに起きてしまったことは仕方ないわ。大事なのはこれからだしね」
「これからどうするんですか?」
「母親として出来る限りのことをしていくわ。子供のために無理をして夫婦をやり直すなんてことは出来ないけど、でも、それぞれが母親として、父親として出来ることはあると思うから。集人も学校を辞めることになると思う。こっちの学校に編入出来るように栢野さんが手配してくれるって」
そう言った奈津子は少し嬉しそうに見えた。




