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妖かし探訪記  作者: けせらせら
30/66

29

 その電話は栢野綾女からだった。

 新堀智が目を覚ましたという連絡だった。

 美空たちは急いで病院へ向かった。目が覚めた新堀智がすぐに病院を出て帰ると言い出したと聞いたからだ。

 美空たちが病院の正面玄関でタクシーを降りた時、ちょうど新堀智が早足で出てきたところだった。

 すかさず芽夢がその前に立ちはだかる。

「な、なんですか?」

 ギョッとした顔をして芽夢の顔を見る。

「どこへ行くつもりですか?」

 芽夢からまっすぐに睨まれ、智はすぐに目をそらした。

「か、帰るんだよ」

「その様子ではずいぶん元気になったようですね。しかし、私たちに礼の一つもないのですか?」

「僕が頼んだわけじゃない」

「あなたに聞きたいことがあります」

「そこをどいてくれ」

「なるほど。私たちが誰か聞こうとはしないのですね。つまり先日のことは憶えているということですね」

「う……」

 新堀智の動きが止まった。

「ぼ、僕は何も知らない」

「知らないことまでは聞きません。知ってることを答えてくれればいいのです」

「だ、だから僕はーー」

「自分のやったことの責任くらいは取りなさい」

 静かだが、その言葉は新堀智の胸を抉ったらしかった。その体から力が抜けたように項垂れる。

 その姿を見て、芽夢は満足そうな顔をした。

「あなたはどこまで憶えているのですか? 自分たちが何をしていたのか記憶していますか?」

 新堀智は小さく首を振る。

「あなたの仲間については?」

 やはりそれにも首を振った。

「あなたはなぜこの街に来たのですか?」

「何も覚えてないんだ」

 智は辛そうに答えた。

「では、浜本睦美については覚えてますか?」

 その問いかけに新堀智は初めてピクリと反応した。そしてゆっくりと頷いた。

「あの子、どうなったの?」

「気になるのですか?」

「助けてあげてくれないかな」

「自分でやればいいんじゃありませんか?」

「今の僕には出来ない」

「どうして?」

「あれは僕に特別な力があったから」

「つまり、今のあなたには術を使うことも出来ないということですか?」

「……うん」

「つまり、その自覚はあったわけだ」

「い、意識してやったわけじゃない」

「責任逃れですか?」

「そうじゃない。僕がやったのはわかってる。でも、夢の中での行動を全て自覚しろって言われてもどうしようもないじゃないか」

「しかし、夢じゃなかった」

「わかってる。それで? あの子は?」

「大丈夫です。彼女、元に戻ったそうです」

「……そう」

 それはどこかホッとしているようにも見えた。

「あなた、また学校に戻るのですか?」

「それは……まだわからないよ」

「とにかく今は病室に戻りなさい。別にこれ以上あなたをどうこうしようなんて思っていませんよ。今回のこと、あなた自身が向き合うべき問題です。あなたにとってあれが夢の中の行動であったとしても、あなたの行動が正しかったのかどうか反省すべきではありませんか? 入院しながらゆっくり考えなさい」

 新堀智は項垂れたままわずかに頷いた。


*   *   *


 ゆっくりした足取りで病院内に戻っていく新堀智を美空たちは見送った。

「ほとんど参考にはなりませんでしたね」

 そう言いながらも芽夢はさほど気にしていないようだ。

「どうしてあんなことを?」

「あんなこと?」

「新堀君にずいぶん厳しいこと言ってたでしょ」

 美空には芽夢がなぜあんなことを言ったのか理解が出来なかった。

「彼は自分のやったことを自覚しなければいけないんです。そう思いませんか?」

「それはそうだけど」

「私が言っているのは『妖かし化』した力を浜本睦美に使ったことではありません」

「どういうこと?」

「彼のやり方は間違っているんですよ」

「何が?」

「イジメに対して、被害者が何も見ずに何も聞かなければ苦しまなくて済む。そんな考え方が違うと言っているんです。なぜ、加害者に対してイジメをやめさせることを考えなかったのですか?」

「それは……」

「それは彼にそんな勇気が持てなかったからです。きっと過去に自らがイジメられたときもそうだったのでしょう。自分の臆病さから逃げていては何の解決にもなりません。先日、遭遇した時、新堀智がどんな人間かよくわかりました」

「この前のこと? どうして?」

「あの時、あなたは何も感じませんでしたか?」

「攻撃的な感じを受けた……殺意っていうのかな」

「違いますよ。あれは敵意です。殺意とは違っています。だからこそ私は彼に恐怖を感じなかった。きっと、それが彼という人間なのです。彼は根本的なところを変えなければいけないんです」

「じゃあ、花守さんは新堀君のためにあんなことを?」

「は?」

「違うの?」

「私は気に入らないものを気に入らないと言っただけですよ」

 芽夢はプイと背を向けて歩き出した。

「どこに行くの?」

「帰ります。ああ、そうだ。私は明日、学校は休みます。少し調べたいことがあります」

 芽夢は軽く右手を振って去っていった。


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