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妖かし探訪記  作者: けせらせら
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 小さな黒い影。

 100メートルほど先の角にその影が揺らいでいる。

「あれ……は?」

 美空はその方向に視線を向けた。既に芽夢も同じ方向を見つめている。どうやら芽夢にも見えているようだ。

「犬……っぽい形に見えますね」

 確かにそれは犬のように見えた。しかし、それが普通の犬とは違うことは明らかだった。それは犬のシルエットはあるものの、黒い影の塊だった。

 川北集人が妖かし化した時の姿を思い出す。

「でも、犬じゃない」

「それは私にもわかります」

「なんだろう? あれ?」

「考える必要もないでしょう。モノノ怪ではないのですか?」

「……わからない」

「しっかりしてください」

「……うん」

 美空は戸惑いながらもソレに向かって一歩踏み出した。その美空の肩を背後から芽夢はグイと押さえた。

「何をするつもりですか?」

「よく確かめてみないと」

「あなた、迂闊すぎるんじゃありませんか?」

「でも、危険は感じないよ」

「そんな楽観的な」

「うん……まあ、大丈夫よ」

 それはただ誤魔化したわけではない。本当にそんな感じがしたのだ。「でも、花守さんはここで待っていて」

 芽夢はそれに対して答えようとはしなかった。しかし、美空の肩を掴んでいた手がそっと離れた。

 美空は大きく一息吐いてから進みだした。

 ゆっくりと近づいていく。

 やはりどんなに近づいていっても、それは影のままだ。

 しかし、やはりソレは犬だった。小型の柴犬のようだった。

 美空はソレの目の前に立った。

「キミは誰なの?」

 そっとソレに向かって手を伸ばす。

 小さくクゥーンと声を出した……ような気がした。

 その瞬間――

 世界が暗転した。

 頭のなかに意識が飛び込んでくる。

(これは何?)

 弱々しく震える犬を抱く少女の姿が見える。

――助けてあげたいのに

 涙が溢れ、頬をつたい落ちていく。

――何もしてあげられない

 強い後悔の念。

――ごめんね。ごめんね。

 声が聞こえてくる。

(高木さん?)

 一瞬、そこに高木文枝の姿が見えたような気がした。

 ふいに誰かに名前を呼ばれ、ハッとして意識が戻る。

 そこに花守芽夢の顔があった。

「日ノ本さん、大丈夫ですか?」

「……うん。あの犬は?」

「どうかしたのですか? あの影が消えた途端、あなたは突然倒れたんですよ」

「消えた?」

 美空は起き上がると急いで周囲を見回した。だが、芽夢が言ったように既にあの影は見えなくなっていた。

「何があったのですか?」

「高木さんの姿が見えた」

「高木文枝ですか? どこにいたのですか?」

「ううん、そうじゃない。頭のなかに」

「頭の中?」

 芽夢の眉間に皺が寄る。

「小さい頃の姿だったからハッキリとは言えないけど……でも、あれは高木さんだったと思う」

「何かわかったのですか?」

「わかっていうか……見えたっていうか」

「見えた? 何が見えました?」

「子供の頃の記憶だった」

「子供? 記憶?」

「犬を抱いて泣いてた」

「犬? 今回のモノノ怪に関係があるんでしょうかね?」

「わからない。何か文枝さんの情報と結びつかない? 調べられない?」

「簡単に言わないでください。それなりには手間がかかるのですよ」

「お願い、調べて。あれは文枝さんに関係があると思う」

「わかりました。しかし、あなたはどうしてそう彼らの感情を感じ取れるのでしょうね? やはり霊力があるからでしょうか?」

「わからない」

「即答ですか」

「あ……ごめん」

「まあ、いいでしょう。少し時間をもらえますか? 彼らの気持ちなど、私には興味はありませんが、それでもモノノ怪退治に繋がるのならいいでしょう」

 美空は少し迷ってからーー

「ねえ、その退治っていうの止めない?」

「どうしてですか?」

「モノノ怪って言っても元は普通の人間なのよ」

 芽夢は少し意外そうな顔をした。それはきっと美空が言った言葉に驚いたのではなく、美空がそんなことを主張したことに驚いたのだろう。

「……では、私は彼女の過去を調べます。あなたはモノノ怪の行方を追ってください。行方がわからなければ、退治……対処することも出来ませんからね」

 その時、芽夢のポケットで電子音が響いた。


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