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翌日の放課後、美空は芽夢と共に管理人から聞いた場所へとやってきていた。
坂の多い住宅街で、古い家々と共に新しいマンションも立ち並んでいる。
「ここですか?」
「たぶん」
そう答えながら美空は周囲を見回した。だが、大通りからも離れているため、際立った音など何も聞こえてはこない。
犬くらい飼っている人がいても不思議ではないが、それでも犬の鳴き声など聞こえてはこない。管理人が言っていたのはただの噂話なのだろうか。
だが、管理人の話は妙に引っかかるものがあった。芽夢もそれを聞いてすぐに百花との関わりを疑った。
だからこそ、二人でその噂を確認にやってきたのだ。
その時――
「あんたたち、何してるの?」
マンションの陰から出てきた背の低い小太りの中年の女性が怪しむように美空たちを睨む。
「ここらへんで犬の鳴き声が聞こえるって聞いたんですが」
「犬?」
「知りませんか? ここら辺で犬を飼っている人」
それを聞き、女性の目が泳ぐ。どうやら何か思い当たるものがあるようだ。
「そんなのどこにでも居るでしょ?」
その動揺したような声のトーンを聞き、芽夢も同じように感じたらしい。すぐに女性に向かって一歩踏み出す。
「噂を聞いたんですよ」
「噂?」
「姿は見えないのに犬の声だけが聞こえるって」
「え?」
「ここに多くの犬を飼っていた人がいると聞いたんですが」
「あなたたち、どうしてそんなこと調べているの? 今頃、あんな女のこと」
わずかに声が上ずっている。
「やっぱり居たんですね?」
芽夢がニヤリと笑う。
「何なの、あなたたち。あの女の知り合い?」
「いえ、そういうわけではありません。今、学校でペットについての課外授業がありまして。飼い主にとっては愛すべきペットとはいえ、それが他人にはどれだけ迷惑をかけているかということを知るべきだろうということですよ」
驚くほどに自然な嘘。こういうところが芽夢の長けているところだ。
「ああ、そういうこと」
女性はホッとしたような顔をした。「わかるわ。ホント、迷惑なのよね」
「それでですね、この辺りにペットを多く飼っていた人がいると聞いたんですが、その人がどこにいるかを知りたいんですが」
「もういないわよ」
ツンと低い鼻を突き上げるようにして女性は言った。
「いない?」
「引っ越したのよ」
「今はどこに?」
「知らないわよ。言っておくけど、あの女を追い出したのは私たちじゃないからね」
「追い出した?」
少しずつ、そして的確に芽夢が情報を聞き出していく。
「だから、それは私たちじゃないの」
「じゃあ、誰が?」
「それは……あの子よ」
思い出そうとするように頭の横で手を回す。
「あの子って?」
「名前は……忘れちゃったわ」
どうやら名前を思い出すのは諦めたらしく、プイとすねた子供のように横を向く。
「それはこの辺に住んでる人ですか?」
「違うわ……たぶんだけど。どっからか急に来たのよ。誰かの知り合いなんじゃないの? 子供のくせにやけに生意気で」
「子供? その子が何をしたんです?」
「何って……あ、そうだ! 文枝ちゃんって言ったわ」
その名前を聞き、美空は小さく身を震わせた。
「文枝? 高木文枝さんですか?」
「そうそう、そんな名前だったわ。あなたたち、知り合いなの?」
高木文枝は美空の一年の時のクラスメイトだった。
生真面目な性格で校則に厳しく、いつも授業がはじまる3分前には席につくのを心情にしていた。彼女ほど委員長にふさわしい人はいないように思えた。
「文枝さんが何をしたんですか?」
「だから、文枝ちゃんが白井さんを追い出したの!」
女性はまくしたてるように話し始めた。




