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浜本房子が訪ねてきたのは翌日の放課後のことだった。
房子は美空たちの姿を見つけると、足早に近づいてきて二人の手を握りしめた。
「ありがとう。何があったのかはわからないけど、あなたたちなんでしょ?」
驚くほどに房子の声は大きかった。周囲を通る学生たちが訝しげに横目で見ながら通り過ぎていく。
美空たちは周囲の視線を避けるようにして、急ぎ足で近くの公園へと連れて行った。
「あなたがわざわざ来たということは、睦美さんに変化があったとういことですね?」
芽夢はいつものように冷静に房子に言った。
「あなたたちなんでしょ?」
改めて房子はそう言って美空たちを凝視した。
「――かもしれません」
「何をしたの? 医者だって何も出来なかったのよ。あなたたち、何をしたの? やっぱり睦美が知り合ったっていう男の子が関係していたの?」
芽夢と美空は顔を見合わせた。詳しい事情を房子には話さないほうがいいかもしれない。そもそも話したところで信じられないかもしれない。
芽夢は改めて房子に顔を向けるとーー
「そんなことより、あなたにとってはこれで良かったのですか?」
「え? 当然でしょ」
芽夢の言葉に房子は不思議そうな顔をした。
「これからどうするつもりですか?」
「これからって?」
「あなたと睦美さんの関係ですよ」
「え?」
途端に房子の顔が強ばるのがわかる。「何言ってるの?」
「浜本房子さん、妹さんをイジメていた首謀者はあなたなんじゃありませんか?」
「ば、馬鹿なこと言わないでよ」
そう言いながらも房子はわずかに後ずさった。だが、芽夢の言葉に動揺していることは明らかだった。
「睦美さんのイジメはダンス教室の中から始まっている。彼女が公演の主演に選ばれたことがきっかけです。そして、ダンス教室のなかではあなたはリーダー格です。普通、そんなあなたの妹をイジメようとする人がいるでしょうか」
「私は知らなかったのよ」
「そんなバカなことがあるでしょうか。睦美さんのことなら全て知っている。あなた自身がそう言っていたじゃありませんか」
「そ……それは……」
房子は言葉に詰まった。
「もともと睦美さんがダンス教室に通い始めたのはあなたに憧れたから。でも、次第に睦美さんのほうが上手くなっていた。あなたは、それが我慢出来なかった。だから、ステージの主役に抜擢された睦美さんのことが許せなかった」
房子の拳が強く握られている。
「私は……ただ、ちょっと意地悪しただけ」
「それを周りがマネをした? それは知ってたんでしょう?」
「すぐに終わると思ったのよ」
房子の目線が不安そうに動く。
「しかし、終わなかった。終わるどころかイジメは学校にまで広がった」
「まさか……あんなことになるなんて思うわけないじゃないの」
「あんなこと?」
「あんな変な病気になったのまで私のせいなの?」
「――かもしれません。しかし、そのことで睦美さんはむしろ救われたんじゃないでしょうか」
「救われた?」
「悪口を聞くこともなく、意地悪をされることもない」
「イジメから逃れるためだっていうの? そんなことがあるの?」
「信じられないかもしれませんがね」
「ねえ……睦美は気づいているのかな」
心配そうに芽夢の顔を見る。
「それこそがあなたが気になっていることなんですね。だから、慌てて私達に話を聞きにきた」
「教えて」
「わかりません。でも、あなたはそれを受け止めるしかないのです。もし、あなたが後悔しているのならば、それはあなたのこれからの行動で償っていくしかないのです」
口を真一文字に結び、房子は俯いて足元を見つめた。




