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妖かし探訪記  作者: けせらせら
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 綾女に車で送ってもらいマンションへ帰る頃にはすっかり陽が暮れていた。

 駅前で車を降りて、コンビニで買い物をしてから細い路地を通ってマンションへ向かう。この街に引っ越した日、美空は周辺を歩いてこの道を発見していた。この道ならばマンションまで車で送ってもらうより早いくらいだ。

 栢野綾女と会って話をしたことは、芽夢には黙っていることにした。

 彼女からの話は決して百花を探すための新しい情報というわけでもなかったし、どちらかというと陰陽師としてのアドバイスという意味では、芽夢に伝える必要もないだろう。

 むしろ美空が綾女と会ったことを不快に思われるかもしれない。芽夢はあまり感情を表に出すタイプではないが、それでも綾女に対して良い感情を持っていないことは明らかだ。

 そんなことを考えながら、マンションの裏手に出た時、美空は思わず足を止めた。

 向かい側の道に人影が見えた。そのシルエットでそれが芽夢であることはすぐにわかった。それを見て美空は思わず身を隠した。なぜならば、その時、芽夢には珍しく連れがいたからだ。

 芽夢と一緒にいたのは月下薫流だった。

 以前、一条家に挨拶に行った時、綾女が言っていた転校生だ。綾女から話を聞いたあと、一度だけ隣のクラスを覗いて姿を見たことがある。少し中性的な印象のある不思議な雰囲気を持っている生徒だった。

 しかし、月下薫流については芽夢が自分で調査すると言っていた。今にして思えば、むしろ、美空が薫流に興味を持つことを嫌がっているようにも見えた。

 これが芽夢の言っていた調査なのだろうか。

 少し距離が離れているため、何を話しているのかは聞こえない。しかし、なぜ二人が一緒にいるのかが気になった。

 美空が直接、月下薫流に話を聞くと言った時、芽夢はすぐにそれを禁じた。そんな芽夢が、薫流相手に直接話を聞こうとするだろうか。

 芽夢に気付かれないように、そっと身を隠しながら階段を上がり部屋に向かう。

 部屋に入ると、すぐに窓に近づいてそっとカーテンの隙間から外を覗く。だが、さっき芽夢がいた場所はちょうど死角になっていて見ることが出来ない。

(何してんだろ、私)

 それでも芽夢と薫流の関係が気になる。

 もう少し近づいて話を聞いてみるべきだったろうか。だが、あの芽夢のことだ。迂闊なことをすればすぐに気づかれてしまうだろう。

 芽夢を怒らせたくはない。

(何があったんだろう?)

 妙に胸がドキドキする。

 芽夢とは同じマンションで、隣あった部屋で暮らしているものの、決して彼女は仕事以外のことで訪ねてくるようなことはなかった。

 芽夢は月下薫流について自分に話してくれるだろうか。なぜかは自分でもわからないが、その可能性は低いように思えた。

 しばらくジッと窓の外を眺めていると、コツコツと通路を歩く足跡が聞こえてきた。美空はすぐに忍び足で玄関口まで近づいた。

 隣のドアの鍵穴のガチャリという音が聞こえる。

 美空はジッとしていられず思わずドアを開けた。そこには自分の部屋のドアを開けようとしている芽夢の姿があった。

「今帰り?」

「そうです。何ですか?」

 驚く顔も見せずに芽夢が聞き返す。

「どこ行ってきたのかなって思って」

「調査ですよ。どうしてそんなことを?」

「あ……いつも花守さんばっかりに任せっぱなしだから、なにか手伝えることがあればと思って。私もリーダーとしてちゃんと知らなきゃいけないこともあるかなって」

「ほお。リーダーの自覚が出てきたのですか。それは良いことですね。しかし、調査は私の仕事です。特別なことがわかればちゃんと教えます」

「それって、何?」

「何がですか?」

「だから、特別なこと。何かないの?」

「今日は何もありませんよ」

 やはり芽夢は月下薫流について話すつもりはないようだ。

「何も?」

「残念ですが」

 表情一つ変えずに芽夢が答える。

「……そう」

「どうかしましたか?」

「あ、ううん。なんでもない」

 美空は首を振った。

「そうですか。せっかくリーダーとしての自覚が出てきたのなら一つお願いがあります?」

「何?」

「浜本房子が私たちをなぜ知ったのかを調べてください」

「それってお母さんから聞いたんじゃないの?」

「ですから、母親はどうして私たちのことを知っていたのかを知りたいんですよ」

「どういう意味?」

 今更、なぜ芽夢がそんなことを気にしているのかがわからなかった。

「この街に高校はいくつもあります。あなたは昨日、私服でした。私は制服を着ていましたが、その上にコートを羽織っていました」

「あーー」

「そうです。それなのに母親は私たちを上杉高校の生徒だと認識していたということです。あの母親が私たちのことを知っていたとは思えません」

「じゃあ、誰かが教えたってこと?」

「それはわかりません。しかし、誰かが絡んでいたとすれば少し事情も変わってきます」

「でも、どうやって? 改めて聞いてみればいいのかな」

 美空の言葉を聞き、芽夢が眉をひそめる。

「いえ、やはりこの件は私が調べます」

「どうして?」

「あなたに頼むことではないと判断したからです。今、優先すべきことでもないでしょう。この件は忘れてください。では、おやすみなさい」

 そう言うと芽夢は美空の返事を待つことなく部屋に入っていった。

 バタンとドアが閉まる。


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