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妖かし探訪記  作者: けせらせら
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 翌日、一日の授業が終わり校門を出た美空たちの前に一人の少女が立ちふさがった。

 チェック柄のスカートにネイビーのブレザー。その制服から見て、彼女はこの学校の生徒ではなさそうだ。明るい茶色に染められたその生徒の表情はいかにも怒っているように見えた。

「あなたたち、誰なの?」

 その少女はいきなり荒げた声を美空たちに向けた。

「いきなり何?」

 美空は戸惑いながらも答えた。

「あなたたち、昨日、病院に来たでしょ。妹の知り合いだって言ったそうね」

「あなた、浜本房子さんですか?」

 と、すぐに芽夢が聞き返す。

「浜本?」

「そう、浜本睦美さんのお姉さんですよ」

 美空が聞き返すと芽夢が答えた。そういえば1歳年上の姉がいると母親が言っていたことを思い出す。

「私のことも知っているみたいね」

 房子は芽夢を睨んだ。

「一応。あなたこそ、よく私たちのことをわかりましたね」

「お母さんにどんな人が来たかを聞いたのよ。二人のうちの一人は女子高生にしては老けたデカい女だったって」

 房子は改めて芽夢の容姿をジロジロ眺めながら言った。その言い方に、美空はグッと笑うのを堪えた。

「ずいぶんな言い方ですね」

 ボソリと芽夢が呟く。

「でも、おかげですぐにわかったわ。もう一人のほうもお母さんが言っていたとおりだし」

「それって私?」美空はドキリとした。

「そうよ。さして特徴もない小さい子、その通りだわ」

「特徴もない?」

 そう言われるのもわかる気がするが、ちょっと悲しい気分にもなる。

「そんなことより、あなたたち何者なの?」

「睦美さんの知り合いと名乗ったはずです」

 芽夢が面倒くさそうに答える。

「そんな嘘が通ると思っているの?」

「なぜ嘘だと思うのですか?」

「睦美は昔から私には何でも話すの。あの子はそんなに親しい友達なんて少なかったから、あの子の親しい人で私が知らない人はいないのよ」

「ずいぶん狭い世界観ですね」

「妹は内気なのよ」

「いえ、私が言ったのはあなたのことです」

「私?」

「妹さんには妹さんの人格も生活もある。あなたの知らない知り合いだっていたかもしれないでしょう。どうしていないと言い切れるのですか」

「言い切れるわ。妹のことで私の知らないことはない」

 房子はハッキリと言い切った。これには芽夢も驚いたようだ。言葉を切り、少し間を開けてから再び口を開く。

「本当ですか? 本当にあなたは妹さんのことを全てわかっているのですか?」

「本当よ」

 勝ち誇ったような顔をして房子は言った。

「じゃあ、最近になって親しくなった人のことも聞いてますか?」

 芽夢が房子に詰め寄った。

「最近?」

「つまり入院する前の頃のことですよ」

「それなら……あ、いや、どうしてそんなこと私が話さなきゃいけないのよ。まず、あなたたちが何者なのかを答えなさい」

「つまらないことにこだわってどうするのですか」

「つまらないですって?」

「妹さんを助けたくないんですか?」

 その芽夢の言葉を聞き、房子の表情が変わった。

「睦美を助けられるっていうの?」

「そうです」

「本当に?」

「可能性はあると考えています」

 房子の目の中に戸惑いと希望が入り混じったような光が見えた。

「で……でも、その前にあなたたちは誰なの?」

「この学校の学生です。さあ、答えましたよ」

「そ、そんな答え方、ずるいでしょ」

「それ以上に何を答えろというのですか?」

「どうして妹に近づいたの?」

「私たちの目的は妹さんではありません。妹さんと関わったかもしれない人物です。そして、それをハッキリさせることで妹さんは助かるかもしれません。答えられるのはここまでです。さあ、答えますか? それとも拒否してこのまま帰りますか? 私はどちらでも構いませんよ。少し時間はかかるかもしれませんが、あなたの力を借りずとも私は必ず調べだします」

「花守さん、そんな言い方しなくてもいいでしょ」

 見かねて美空が口を出した。さらに房子に向かってーー「事情が複雑なので詳しいことは説明しづらいんです。でも、決して妹さんに悪影響があるわけじゃありません」

 美空は弁解するように言った。

 房子は美空と芽夢の顔を見比べながら、やがて覚悟を決めたかのように口を開いた。

「わかったわ」

「知っているんですね?」

 芽夢が房子に向かって顔を近づける。

「智君って呼んでたわ」

「智? 新堀智ですか?」

 それは行方不明になっている百花の一人の名前だった。美空よりも1学年上の先輩だが、ほとんど記憶に残っていない。

「名字までは聞いてないわ。妹だって聞いてなかったかもしれない」

「どうやって知り合ったんですか?」

 さらに芽夢が問いかける。

「助けられたって」

「助けられた?」

「公園でケガをした時、助けてくれたって」

「公園で? どうしてケガを?」

「それは知らない」

「睦美さんがああなってから誰かが訪ねて来ましたか?」

「いないわよ。でも、お母さんの知り合いはよく来てたわよ。最初は病院を片っ端から回ったし、その後、神社やお寺を回ってお祈りしていたから、その関係で怪しい宗教関係の人とかも来てた時期もあった。でも、誰も助けられなかった」

「それはずいぶん大変だったのですね」

 感情の入っていない抑揚のない声で芽夢は言った。

「そうよ。それで? 妹を助けられるの?」

 芽夢は少し考えてからーー

「まだ足りません」

「あとは何が知りたいの?」

「いえ、残念ですが、あなたはその情報を持っていないと思われます」

「どうして? 私は妹のことなら何だって知っているわ」

「何でもですか?」

「そうよ」

「なら、今の状況についてもわかっていなければおかしいではありませんか」

「それは……」

 房子は口惜しそうに押し黙った。

「勘違いしないでください。あなたを責めているわけではありません。兄弟だから、家族だから。だからこそ、知らないことだってあるのですよ」

 芽夢の言葉は美空の心にも重く響いた。


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