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あれから一週間後の午後、美空は市民病院のロビーにいた。
休日ということもあって人数は多くはない。
ここには川北集人が入院している。集人の意識は未だに戻らない。だが、今日、美空たちが病院を訪れたのは別の用事があったからだ。
それも御厨ミラノからの情報だった。先日、たまたまクラスメイトに付き添って、この病院を訪れた時、一人の少女に出会ったのだそうだ。
――あなたたちが捜している人たちに関係しているかもしれないわよ。行ってみれば私が言っている意味がわかるわ。
ミラノはそう言って、その少女のことを話してくれた。
今、芽夢がその少女が本当にこの病院にいるかどうかを確認しに行っている。美空は少し緊張しながら周囲を行き交う人たちに視線を向けた。
病院は苦手だ。
そこにいるだけで身体のどこかが悪くなってしまったような気がしてくる。
今日も一歩足を踏み入れた時から、わずかに頭が痛い気がする。
ふと気づくと受付に話を聞きにいった芽夢が戻ってくる姿が見えた。大股でツカツカと歩いてくると、長椅子に座る美空の前に立って見下ろしながら言った。
休日だというのに芽夢は今日も黒いコート姿だ。芽夢は休日でも外出するときには高校の制服を着ている。だが、さらにコートを着込んでいるため、やはり高校生には見えにくい。
「わかりましたよ」
「教えてもらえたの? そういう個人情報って厳しいんじゃないの?」
「聞き方次第です。こういうのもそれなりに技術というものがあるのです」
「聞き方?」
「相手の弱みを握っていれば、それをちらつかせれば教えてくれるものです。相手が強欲な人間ならば金をちらつかせれば教えてくれることもあります。それ以外にもいろいろとありますよ」
「どう聞いたの? まさか……」
「聞きたいですか?」
「あ……ううん」
美空は思わず首を振った。それを聞いてしまうと、芽夢から情報を提供されることに抵抗感を覚えてしまいそうな気がした。
芽夢もそれについてはそれ以上話すつもりもなかったらしく、さっそく本題に入った。
「御厨ミラノが言っていたのは浜本睦美のことだと思います」
「浜本睦美さん? でも、行方不明の百花の人たちの中にその名前はーー」
「ありません。もちろん桔梗学園の生徒でもありません。こちらの中学の生徒です」
「中学生? その子、百花と関係があるの? 何か情報が?」
「そんな記録はありません。もちろん、事務局から渡された記録だけが全てというわけではありませんが」
「じゃあ、どうしてミラノさんは彼女のことを私たちに?」
「不思議な病状だと言っていましたね」
「病気なんでしょ?」
「こんなところで悩んでいても仕方ありません。とりあえず会ってみましょう」
「会えるの?」
「会うしかないでしょう。会って意味があるかどうかはわかりませんが」
「意味があるかどうかわからない?」
「行けばわかりますよ」
「でも、許可は? もらえたの?」
「さすがに許可なんてもらえるはずないでしょう」
「いいの?」
「では、このまま帰りますか? そうなれば手がかりは無くなりますよ。もし、浜本睦美の病気に百花が関わっているのであれば、彼女を治すことも出来るかもしれません」
「その子、助けられるの?」
「その可能性はあります」
どこか誤魔化されているような気もするが、それでも納得するしかないだろう。
「わかった」
「納得出来ましたか?」
芽夢がもう一度念を押す。
「うん」
美空が立ち上がろうとした時、軽いめまいがして再び長椅子に座り込んだ。
「どうかしましたか?」
「うん、ちょっと気分が……」
「具合が悪そうですね」
「病院は苦手なの」
「大抵の人間はそういうものです。病院が得意な人なんていませんよ。病院を憩いの場としている一部の老人もいないこともありませんがね。どうします? あなたは外で待っていますか? それとも本当に体調が悪いなら、医者に診てもらいますか?」
「どっちも遠慮する。私も行くよ」
そう言って美空は足に力をこめて立ち上がった。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫」
嘘だった。それでもそう自分を思い込ませようとした。




