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妙な気分だった。
理由はハッキリしている。
ベッドに横になり美空はあの時のことを思い出していた。
モノノ怪と出会ったことも初めてのことだったし、それを封じたことも初めてだった。
興奮しているというのとは違っている。
どちらかというと得体のしれない感覚が胸の中に渦巻いている。
あの時、感じたものはなんだったのだろう。モノノ怪というのは皆、あのようなものなのだろうか。
自分は川北集人を救うことが出来たのだろうか。
霊符を使わずに済んだことは唯一の救いかもしれない。あれがどれほどの力を持っているものかはわからない。だが、もしも迂闊に使っていたら、川谷集人という存在を消し去っていた可能性もあるのではないだろうか。
そう思うと自分がやっていることが怖くなってくる。今までずっとモノノ怪などというものは遠い存在のように思ってきた。だが、相手はただのモノノ怪とは違っていた。芽夢は、川北集人がモノノ怪と化したと言っていたが、それは一時的なものでしかないように思われた。
今回の件を引き受けた時、ただ父の役に立てればそれで良いと考えていた。しかし、その考えは甘かったかもしれない。
美空はおもむろにベッドから出ると、クローゼットにかけられた制服のポケットから霊符を取り出した。
これは大切に保管しておこう。
使わずに済むなら、それが一番いい。
美空はその霊符を旅行バックの底のほうへと押し込んだ。
不安がないわけではない。
自分のような何の力もない陰陽師のタマゴが霊符なしでちゃんと仕事が出来るだろうか。だが、何があったのかはわからないが川北集人のことは救うことが出来た。
きっと他の人達も同じように見つけ出すことが出来るだろう。
それにしても、あの時、いったい何があったのだろう? 今でもまだあの時のことをハッキリと思い出すことが出来ない。
(ま、いっか)
思い出せないということは、思い出さなくても良いということだ。
必要なものならば、そのうち思い出せるかもしれない。
美空は悩むのを止めることにした。
無理に思い出そうとすると浮かんでくるのは、あの直後の芽夢の顔だ。
あんなふうに芽夢が我を忘れたような言動は見たことがない。
なぜ芽夢はあんなにも驚いていたのだろう。
今度、それについて聞いてみよう。
(きっと大丈夫)
美空は言い聞かせるように声に出さずに呟いた。そして、ベッドに潜り込んだ。
不思議と疲れてはいない。むしろ身体が軽い気がした。
その夜、夢を見た。
銀色の光を放つ狐が夜空を駆け巡っていた。




