プロローグ
プロローグ
朝日が眩しい。
日ノ本美空は窓を開けて空を見上げた。
都会の空と比べ、東北の空はやけに広く感じる。やはり周囲に高い建物が少ないせいかもしれない。
こうして窓から眺めると、遥か遠くまで見渡せるような気がしてくる。
(私、何してるんだろ?)
自分が今、こうしていることが不思議に思えてくる。
その話は唐突だった。
美空はこの春まで京都にある新桔梗明智学園に通っていた。通称、桔梗学園は表面上、普通の高校だが、実は陰陽師たちを束ねる組織である宮家陰陽寮配下にある高校だ。詳しいことは知らないが全国に同じような高校がいくつか存在しているらしい。陰陽師を育てるための学校などと聞けば特殊な生徒たちの集まりのように思われるかもしれないが、実際にはさほど一般の高校と違いがあるわけではない。もちろん陰陽道を学ぶ時間はあるがそれはわずかな時間でしかも基礎知識を学ぶだけで、多くの時間は一般的な授業に割り当てられている。陰陽術についての専門的な授業は3年になってから、選ばれた生徒のみが受けられると聞いている。
今年2年に進級したばかりの美空にとって、もう少し先のことになる。
一年の終業式の後、学生寮に帰ったばかりの美空に呼び出しの電話が入った。相手は桔梗学園事務局の局長である楠木祥三だった。
楠木は美空に一つの指示を与えた。
それは行方不明になっている生徒たちを捜索するというものだった。楠木の話しでは、一部の学生たちが昨年の秋頃から密かに東北へ『妖かし』の探索に向かい、その後、行方不明になった。彼ら6人は『百花』と呼ぶ組織を作りり、陰陽術を使った研究をしていたらしい。
その指示を受けた時、美空は少しだけ心を弾ませた。事件に興味があったわけではない。ただ、事務局長が今回のことを相談してくれたことが嬉しかったのだ。
実は事務局長である楠木祥三は美空の父親だ。
両親が離婚してすでに10年。当時、まだ幼かった美空にはそれを理解することも出来なかったし、その後も二人がなぜ別れたのか、詳しい事情は聞いたことはない。
父に会えたのは偶然だった。美空が父と再会したのは高校に入学した時だ。中学の頃、母が病気で亡くなった後、美空は京都にある桔梗学園に進学することを決めた。入学した直後、手続きのために事務局を訪ねた時に父のことを知った。
入学式の翌日、美空はすぐに父に会いに行った。その時の父の驚いた表情は今でも忘れることが出来ない。
父の姓を名乗ることはしなかった。父親と娘という関係よりも、宮家陰陽寮の事務局長としての父の存在に誇りを感じたからだ。そのため、周囲にも父との関係を話すことはなかった。
この1年間、美空は父のいる学園で学んできた。
その父が、行方不明になった生徒たちを捜すよう頼んでいる。自分が頼られているのだと感じたかった。
そして、美空は4月から、この陸奥中里市にある東上杉高校へと転校してきたのだった。