領主補佐ユリシーズ侯爵
宝物管理官の朝は9時スタート。
まず最初に領主補佐のユリシーズ侯爵様の執務室で、宝物庫の鍵を借りる。
「おはよう、ミオン。時間通りだな。用意してあるよ」
「おはようございます、侯爵様。ありがとうございます」
「昨日も、夜おそかったな」
「はい、目録作りが軌道に乗って、つい熱がはいってしまって」
「そうか、殿下のお相手に時間をとられているのでないならば、良かったよ」
ユリシーズ様は領主補佐として、この城やオトラン地方の管理を一手に担っている。実力者であり、切れ者だ。
今の領主様はあまり政治的なことに興味がなく、長年、運営面はユリシーズ様に一任されていた。
次期領主候補のオスカー殿下や、ロルフ殿下も、成人してからユリシーズ様の仕事を引き継いできたらしいが、『歯が立たない』というのがロルフ殿下の評価だ。
「ロルフ殿下は宝物庫でサボっているの、まだ見つかっていないつもりですから、その話は内密にしておいてください」
「領主様の鍵をちょろまかしているのは、正直、困りものなんだが」
「私が目を光らせているので、悪さは出来ません。大目に見てあげて下さい」
「まあ、ミオンの前で、宝物に手出し出来る者はいないな」
「はい。…それに、ユリシーズ様にバラされたくなかったら、お茶の用意をするように脅しているので、ロルフ殿下に気づかれるとまずいのです」
「……。」
深く皺の入ったグレイの瞳がしばらく見開かれた。還暦前だろうけど、昔はイケメンとして名を馳せただろう面影がくっきり残っている。
そのユリシーズ様の驚く顔を朝から見れるのは、なかなかラッキーかもしれない。
「では、仕事がありますので、失礼します」