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宝物庫の迷い子  作者: まほろ
4/5

冬の嵐 side R



その日は、冬の終わりの嵐が吹き荒れていた。


朝から吹雪と雷が止まず、誰もが室内に閉じこもってじっとしている、そんな日だった。





午前中の執務を最低限終えて、俺は昼過ぎに宝物庫に入った。

ある宝物について調べ物をするために、父の持っている宝物庫の鍵を失敬してきていたので、宝物庫前の衛兵以外に、俺が中にいることを知る者はいなかった。


宝物庫の中は、重く冷え込んで、生きているモノの気配はない。



目当ての資料はなかなか見つからず、無為に時間だけが過ぎた。

しばらく集中して調べていたのだが、先の見えない作業に嫌気が差し、少し休みをとろうと近くにあった年代物のカウチソファに座った。

ソファには掛け布がしてあったが、ホコリを纏い、燻んだ匂いがした。

それでも気にせず、体を預けて頭を傾け、どこからか聞こえてくる時計の針の音を聞くともなしに、目をつむってウトウトしていた。



その時、それは起こった。


突然の出来事だった。


体中が得体の知れない冷たさに覆われ、空気が重くのしかかり、全ての音が消え失せる、それが一瞬間のうちに起こった。


まるで体の中を稲妻が駆け抜けていくような、強く激しい衝撃。


俺は飛び起きた。


自分の両手を見る。


異常はない。


薄暗い足もとを見る。


こちらも大丈夫。


顔をあげる。


部屋の中央。


明かり取りの天窓の下。


うずくまっているナニモノかがある。


さっきまでは無かった。


足音を立てずに、そっと近寄る。


1、2、3、4、と近づく。


短い木の枝や、小さな葉が散らばっている。


濡れていた。


乱れた漆黒の髪。


破れた服。


白い肌に、赤い血。痣。


女、だと思う。


首筋に手を添える。


女の肌は冷たかった。


でも、微かに脈はある。



そこで、知らぬ間に止めていた息を吐き出した。


縮こまっている女を仰向けにすると、微かに黒い眉が動いた。

かなり危険な状態だが、生きている。

そう認識した後、すぐに女を抱き抱えて歩き出した。





「ロルフ殿下、これは、いかがなさいましたか?」


馴染みの医務官の元に女を運び込むと、探るような目を向けられる。


「庭に倒れていたのを見つけた」


「庭に?この嵐の中で?」


「助けて、事情を聞き出したい」


訝しみつつも、医務官は既に診察を始めていた。


「肺に傷がついて、心臓が弱っている。かなり危険な状態です」


「死ぬか?」


「私どもの処置だけでは、今夜までです」


「私が魔力を流し込めば?」


「あるいは…。ですが…」


強い魔力を他者の体内に流し込むと、魔力が傷を覆い、延命することがある。


「どうせ死ぬなら、生き残る方も試しておきたい。この女の運命に賭けよう」


女の白い顎に手をかけ、青ざめた唇を撫で、口を開かせる。

俺はそこに唇を合わせ、吐息と共に魔力を喉の奥に流し込んだ。


女は何度も咳き込んだが、くちづけを繰り返し、魔力を送り込み続けると、女の呼吸が落ち着いてきた。



そこから、女が目を覚ましたのは、二週間後のことだった。







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