2-6 絶望
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その日は、いつもと変わりない朝のはずだった。
そのとき、仙果は毎日の日課として桃花の髪を梳っていた。
子昊はこのあとの軍議に備えて支度をし、葉瑆は身じろぎ一つせず仙果と桃花の様子を眺めていた。
『誰かが、来ます』
初めに気づいたのは桃花だった。
桃花の言葉に全員が身構えた瞬間、室の扉が荒々しく開け放たれた。
同時に、仙果の室に衛兵がなだれ込む。
「いったい何を――!?この方がどなたか分かっての狼藉か!?」
子昊の抗議に構うことなく、兵は二人へと腕を伸ばした。
「――おい、切り捨てていいのか」
「おとなしく投降しなさい」
かばうように構えた葉瑆の剣は、武骨な手で押さえつけられた。
「ええ、存じておりますとも。玉座の簒奪をもくろむ黎仙果皇子」
子昊は愕然として武官を見つめ返した。
「何を、太子に選ばれているというのに、簒奪など――」
子昊の訴えに、仙果は唇をかみしめた。
子昊は何も知らない。何も知らなくとも、主である仙果を信じているのだ。
「……誰の差し金だ。殺してやる」
仙果はひりつく喉でそう唸った。自分と、子昊と、手に入れるはずだった栄光を踏みにじられようとしている。
脳裏に嫌な笑みを浮かべる腹の膨れ上がった妾妃が思い浮かんだ。
(あの女か……!)
「……そう傲慢な態度が取れるのも今のうちですよ」
昨日までは仙果に仕えていたはずの衛士がせせら笑う。
どういう意味だ、と聞き返すことはしなかった。最悪の事態が想像されて、背筋が冷たくなる。
わずかな抵抗も虚しく、玉座の前に引きずられ、罪人よろしく額を地に擦り付けられた。
「この者が、玉座の簒奪を目論む不届き者にございます」
産後すぐとは思えない美しい出で立ちの焉妃が高らかにそう告げた。
誰かが仙果の髪をつかみ、上体を引き立てる。
名も知らぬ兵が、剣を構えた。
「おやめください、何かの間違いでございます!」
叫ぶ子昊の声に、仙果は眼をつぶった。
剣を一閃し――はらりと、仙果の服がはだけた。
隣で子昊が息をのむのを感じた。
露になったのは、まぎれもなく女人のそれだった。
「女だ、我らは騙されていた」
ざわめきが広がる。口々に高官が囁き合うのが仙果の耳にも入った。
「皇……子……?」
ハッとして顔をあげると、絶望したような表情で仙果を見つめる子昊の視線とかち合った。
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