拘置所生活 初日1
簡単な自己紹介が終わる。
その後、五番席の松山さんから今後の流れを説明された。
俺が部屋に入った時間は11時半頃だったが、これから昼御飯、4時間後の16時に晩御飯、掃除。その後、点呼があり、21時に就寝となる。
最初にすべきことは日用品購入願せんを書くことらしい。確かに六番席である俺zの机の上に黄色のマークシートがあって気になっていた。
飲食物や日用品の購入は全てマークシートに書いて行う。日用品は水曜日に購入し、翌週の水曜日に配布されるが、特別に新入だけは曜日に関係なく当日購入でき翌日配布される。土曜日曜の購入はできないので、土曜日入所の新入は辛い。日用品購入を月曜まで待ち、実際に来るのは火曜だからだ。
いざ、注文するとなると何を買うべきか分からない。入所したばかりで何が必要か検討もつかない。
松山さんに聞くと、石けん、シャンプーは必須で、手紙を書くなら便箋、封筒、切手、ボールペン、シャーペン、消しゴム等が必要と教えてくれた。
言われる通り、マークシートに記入していく。
「できましたか?」
書き終えたところで松山さんが聞いてきた。
彼はずっと真横にいて俺のマークシートを覗き込んでいた。やりにくくて仕方なかったが、新入の俺は無下にもできない。
はい と答えると松山さんは「じゃ、おやっさんに出しますね」と言ってマークシートを持っていった。おやっさん?聞き慣れない言葉に違和感を覚える。
おやっさんは囚人が刑務官を呼ぶときの言葉だ。
他にもおやじ、担当さんと言った言葉で刑務官を呼ぶ。ちなみに女性の囚人はおかんではなく、先生と言うらしい。
松山さんについていくと、彼は扉横にあるボタンを押した。カタンと音がする。彼に今何をしたか聞くと、報知器を下ろしたのだという。
用事があるときは報知器を下ろせと刑務官が言っていたが、このボタンのことだったのか。松山さんが扉横にある窓の前で正座をして待つので、俺も同じように正座をした。
窓にはもちろん鉄格子がはまっているが、一部分だけ別に小窓がある。ちょうど、動物園の猛獣の檻にあるエサ入れのようだ。
松山さんに聞くと、ここから食事の食器や洗濯物を出し入れするらしい。囚人に食事を与えることをエサやりと揶揄する人間がいるが、これが由来だろう。
松山さんに報知器を出して刑務官を呼ぶときの手順を説明される。まず座った状態で称呼番号と名前を言い、「よし」と言われたら用件を告げる。
これはあらゆる場面で必要な手順らしい。さっそく刑務官が来た。
「458番。松山です」
「おう。どうした」
「おやっさん。マークシートできました」
「よし。出せ」
松山さんが刑務官にマークシートを渡す。
刑務官はしばらく舐めるように見ていたが、問題ないと思ったのか頷いて「おい。伊達。指印を押せ」と言った。
指印。これも留置所と拘置所でよく使われる言葉だ。印鑑の代わりと思ってくれたらいい。
「分かりました」「受け取りました」「異議ありません」という証明が必要なときに毎回押すもので、左手のひとさし指を使う。
俺が指印板のインクを使ってマークシートに指印を押すと、刑務官をそれを持って去っていった。