入所6
「お名前からお伺いしていいですか?」
村山さんに促され、俺は「伊達といいます」と自己紹介した。続けて年齢、罪状を聞かれた。
初対面なのに、いきなり罪状…?
答えたくない。
まだ会ったばかりなのに何故そこまで話さなくてはならないのか。しかし、それを言うと角が立つ。
仕方なく俺は38歳、強盗だと答えた。
それを聞いた村山さんは、特に驚くこともなく自身の罪状を語り出す。
「ほぉー強盗。
なかなか悪いね笑。
俺は傷害。お互い大変だね」
一般社会ならドン引きしてしまう告白だ。
でもここでは違う。
罪を犯した者同士の奇妙な連帯感を感じる。
仲間だと認識してしまう。
村山さんはムカつく奴をボコボコにして全治3ヵ月の重傷を負わせたらしい。全治3ヵ月とはなかなかすごい。彼としてはボコボコにするなりの正当な理由があったらしいが、このときは聞けなかった。
村山さんに促され、二番席から順に罪状を言っていく。相田さんは覚醒剤、吉富さんは窃盗、林さんは建造物侵入、松山さんは放火。
極悪人ばかり。いや、俺も極悪人か。
「裁判はいつ?」
「第一審が来週です」
俺は裁判を間近に控えていた。
罪状を素直に認め、刑事の事情聴取にも全面的に協力していた俺はとんとん拍子に取り調べが終わっていた。
5月に逮捕、7月に裁判とその期間は短かったんだ。否認していたら、あと数ヶ月遅くなっていたらしい。
犯人逮捕から裁判までの流れを詳しく知ってる奴はいるか?
事件を起こし、逮捕された容疑者はまず警察署内の留置所にいく。警察での取り調べのためだ。
逮捕後、容疑者には必ず弁護士がついて、取り調べを受けるときのアドバイスや裁判に向けての準備、家族や被害者への対応、そのほかの雑務をやってくれる。弁護士は金がなければ自動的に国選となり、金があれば私選を選べる。
否認して検察と争うときは私選が良いと俺は思う。
動きが全然違う。減刑になったときに成功報酬があるため、弁護士は本気になる。
俺は国選にした。理由は罪状を全て認めていたからだ。これを認め事件と呼ばれるが、争点がないので弁護士の仕事は少なくなる。だから国選でも問題ないと判断したんだ。
容疑者は取り調べが終わると留置所から拘置所に送られる。裁判を受けるためだ。
第一審、第二審、そして結審まで拘置所にいることになる。結審は早い場合は2回目に行なわれるが、長い場合は10回以上かかることもある。殺人罪で否認している場合なんかだと多い。結審とは判決のことだ。懲役5年とか執行猶予3年とか言い渡されるあれだ。
裁判を受けている間、裁判官に認められれば保釈されることもある。
取り調べが終われば、拘留する理由がないからだ。
保釈金が必要となるが、貸してくれる協会もあるし、最終的には返却されるので金はそこまで気にしなくていい。否認している奴は別だ。ほぼ保釈は認められない。
保釈の豆知識だが、懲役に行くことが確定している場合はオススメしない。拘置所で拘留されている期間も服役期間に算定してくれるからだ。
その割合は裁判官によって異なるから正確には言えないが、半年拘留されてそのうち4か月算定された奴の話も聞いた。これを未決通算という。
受刑より刑確定前の拘留のほうが圧倒的に楽だから、懲役にいく奴は間違いなく保釈しない方がいい。
その後は、裁判で結審され刑が確定する。無罪や執行猶予の場合は裁判所で釈放され、懲役・禁固の場合は拘置所に逆戻りとなる訳だ。