入所5
「では入る前に、称呼番号!入ります!だ」
なんのことだ?俺がきょとんとしていると、刑務官が「390番!入ります!って言うんだよ」と耳打ちしてきた。なるほど。そういうルールか。称呼番号とは自分の390という番号を指すらしい。
「390番。入ります」
俺がそういうと刑務官が「よーし!!!」と大声で言う。想像以上の体育会系ぶり。まるで軍隊だ。
俺が部屋に入ろうとすると「スリッパはここに置けよ」と刑務官が指をさす。
身体検査後に俺の靴は領置物として保管され、代わりに便所履きを貸し出されていた。便所履きは比喩ではなく本物。学校の便所で使われているあれだ。
俺が便所履きを靴置きのようなところに引っかけて部屋の中に入る。
「おう!村山!新人さんな。しっかり教えとけ!お前もちゃんと挨拶しとけよ」
刑務官はそう言うと扉をガラガラとひいて閉め、去っていった。
部屋の囚人は5人いた。どうやら俺は6人目らしい。部屋は8畳ほどの広さで、右側に3人、左側に2人座っていた。彼らは1㎡ほどの机の上でノートを広げていたり、本を読んでいたりしている。机の後ろには布団がびっくりするくらい綺麗に畳まれていた。
俺が入ろうとすると、部屋に座っていた囚人がわらわらと近寄ってきた。全員の上半身が裸体で怖い。シュールな光景だ。
一人が俺のキャリーバックを「貸してください」と言って持っていこうとする。「いいんですか?」と聞くと「いいです。いいです。ほら」と言うので彼に渡した。
彼はホテルのボーイのような素早い動きでキャリーバックを受け取った。そして部屋の奥にあるキャリーバック置き場に几帳面に並べる。その光景に圧倒されていると、別の一人に「こちらにどうぞ」と案内された。お客様のような扱いだ。
俺が机の前に座るのを見届けると、扉に一番近い側に座っていた囚人が周囲を見て頷く。
「初めまして。村山と言います。この部屋の一番席です。よろしくお願いします」
そういうと村山さんは順番に部屋の人物を紹介していった。二番席の相田さん、三番席の吉富さん、四番席の林さん、五番席の松山さん。そしてあなたが六番席になります、と彼は言った。とても全員の名前を覚えられる自信がない。とりあえず、一番席の村山さんの名前は覚えとこう。