入所3
持ち物検査と身体検査を終えた俺は別室に連れていかれ、刑務官の面談を受けた。ここでは罪状、暴力団関係者かどうか、共犯はいないかなどの確認をされた。後で知ったが、ここでの面談結果で俺を単独房か雑居房のどちらに送るか決めているらしい。
面談後、荷物をキャリーケースに移し替える作業に入った。拘置所では、自分の荷物を保管する場所が限られている。領置物、キャリーバック、自室の棚の3つだ。
領置物は拘置所内にある倉庫に保管することだ。最も多くの量を保管できるが、手元に置けないし手元に持ってくるときには書類を書いて手続きをする必要がある。中に持ち込めない財布や携帯も自動的に領置物となる。ちなみに領置物が多すぎると、拘置所の領置課から「減らせ!」と文句を言われる。
キャリーバックは70L近く入れられるもので、多くの囚人がほとんどの荷物を詰め込んでいる。大部分は着替えと本。俺もそうだ。房から房の移動の際は、自分でキャリーバックを運ぶ。キャリーバックはゴロゴロとひいて運べるのだが、一般社会で使うものとは違って使い勝手が悪く、運ぶのに力がいる。だから、本なんかをたくさん入れてキャリーバックを重くすると自分が大変な思いをする。
自室の棚は言葉通り。本を10冊以上並べられるし、歯ブラシやせっけん、タオルなんかも置けるものだ。
必要な荷物をキャリーバックに全て移し終えると、刑務官が「終わったか。じゃあ来い」と指示を出した。ここで俺はあることに気付く。それは刑務官の言葉遣いだ。
警察官は「来なさい」「待ちなさい」「こうすること。いいね」という言葉遣いだった。命令形だが、丁寧さがあった。でも刑務官は「来い」「待っとけ」「こうしろ。分かったか」と言う。なかなか強い命令口調だ。これには理由がある。
長い間、受刑者を相手にする刑務官は彼らになめられてはいけない。反抗する囚人を大声で怒鳴りつけ、ときには懲罰を与えることなど珍しくない。自然、命令口調で言葉も強くなる。一方、警察官もなめられてはいけないのは同じだが、彼らは推定無罪の容疑者を相手にする。容疑者に強く出て、もしその容疑者が無罪放免となったら問題になりかねない。旧監獄法で守られている刑務官とは違うのだ。
俺は刑務官の後ろを大人しくついていった。
刑務官の休憩室のような部屋や倉庫のような部屋を通りすぎて囚人エリアに入る。先ほどまで冷房が効いていて涼しかったが、囚人エリアは蒸しかえるように暑い。留置所は独房にも冷房が効いていた。ここでも扱いの落差が分かる。暑さで一気に汗が出てきて、Tシャツに染みができた。
引率の刑務官は囚人房の厳重な扉を開けて中に入り、そこの担当刑務官に「連れてきました。お願いします」と引き継ぐと、俺に頑張れよと励ましの言葉をかけて帰っていった。
担当刑務官に連れられて舎房の廊下をキャリーバックをひきながら歩いていく。
舎房が何を指すか分かるか?
舎房とは囚人が収監されている場所のことだ。
少し分かりにくいが学校で例えると、とある建物1階の1年1組から1年5組まで教室があるとして、拘置所ではそのエリアを舎房と呼ぶ。舎房の数は地域によって異なるだろうが、俺たちの拘置所はA1からF3まで19の舎房があった。A1とはA棟の1階という意味だ。俺の拘置所は全囚人合わせて500人近くが収監されていて、雑居房のみの舎房と単独房のみの舎房に分かれていた。