◼️閑話 拘置所に入るということ②◼️
拘置所で服役してから、もう結構な時間が経っている。強烈な体験だったので、まだ様々な体験は思い出せるが、ところどころ不鮮明な記憶しかない部分も出始めた。
これを綴る作業は、俺にとって意外と大変だった。出所してしばらくは、娑婆に出れた喜びとともに、これからやるべきことが満載で、これを綴る精神的・時間的余裕があまりなかった。
それでも、服役時に同囚に「出所後は、拘置所内部の実情を書きたい!」と宣言していたことや、服役時の日記が手元にあり記憶が鮮明に残っていたこともあって、意欲的に携帯電話やパソコンに向かい、作業に取り組んだ。作業も比較的スムーズに進んだ。
だが、時間が経つと段々と作業が進まなくなっていった。自身を取り巻く環境が大きく変化し、それに伴って時間的にも精神的にも更に余裕がなくなり、意欲的に綴ることができなくなってしまったのだ。
例えば、企業に転職が決まったことがある。転職活動では最初に説明したように、過去を偽り、服役期間は病気療養をしていたことにした。それを信じてくれたある企業に正社員での採用が決まったのだ。
それまではアルバイトをしており、その合間に綴る作業をしていたが、一企業の正社員となり、日々のエネルギーは仕事方面に向かうようになった。仕事の合間に綴る作業も激減した。昼休憩などの合間に、携帯で入力をしているところを他社員に見られてしまうと、過去が露見するリスクがある。綴る作業は家にいる時だけになった。
また、転職後しばらくして結婚したこともある。
俺は妻に服役の過去を告げることはしなかった。ありえないと思われるかもしれないし、批判は受けて当然だが、両親や過去を知る友人達に相談し、悩んだ末の結論だ。
妻に伝えても、当初は受け入れてくれるだろうことは分かっていた。だが、精神面があまり強くないため、俺以上に重荷に感じてしまう可能性があることや、万が一離婚となった場合、過去を職場に暴露してしまいそうな気質があることが心配だった。
だが最も大きな理由は、どれだけ深く考えても、過去を正直に伝えることの意味がないと思ったことだ。過去を伝えれば、俺自身はスッキリするだろう。だが、その代わりに妻も本来抱える必要のなかった重荷を生涯抱えることになってしまう。俺が日々、過去が職場にバレたらクビになるかもしれないと感じている背徳感を、妻にも背負わせてしまうことになるのだ。そんなことは無意味だと感じた。
それならば、俺は過去を隠し墓場まで持っていこうと決意した。露見したら、その時にどうすれば良いか考えれば良い。まずは何がなんでも隠し通す。
そう決意したことで迷いはなくなった。
インターネットサイトでも以前は俺の名前を犯罪者として検索可能だったが、弁護士に複数回依頼して、全て削除してもらった。依頼料は合計40万近くかかったが必要経費だ。
過去を知っている友人はいるが、敢えて妻に言うとも思えないし、皆県外在住で妻に会うことがほぼない。これで過去が露見する可能性は限りなく低くなった。
だが同時に家でも綴る作業はしにくくなった。
妻は携帯を覗き見る性格ではないが、偶然目に入り、何やってるの?と聞かれるリスクは十分あった。その結果、皆が寝静まった夜中でしか綴る作業はできなくなったのだ。




