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判決1


イジメは拘置所で避けられないものだ。

だから目立たず、注目されず、でもひとりぼっちにはならず、周囲に溶け込む努力が必要だと思う。


そんな感じで拘置所での日々は過ぎていった。

結局、横尾さんはそれから何事もなく拘置所生活を送り、執行猶予で出所していった。万引きをして捕まり、保釈中に再度万引きをして捕まっても、実刑にならないという希少な実例を彼は教えてくれた。



拘置所での生活も2ヶ月が経った。

俺も居室での番席が上がり、二番席になっていた。

一番席は松山さんだ。

明日は俺の判決の日。ついに明日刑期が決まる。

俺は前回の裁判で検察から6年求刑されていた。


そのくらいだろうと覚悟していても6年求刑された時は衝撃を受けた。

担当弁護士は4年くらいの求刑だと予想し、「あなたの場合は執行猶予もあり得る」と太鼓判を押していた。俺の予想と全く異なる見解を示す弁護士の言葉を俺は全く信じてはいなかった。


それは裁判事情に詳しいという村山さんや吉富さんに色々と教えてもらっていたからだ。彼らは俺の犯罪内容だと求刑は5年から6年、情状酌量で判決は4年から5年。執行猶予は絶対にあり得ないと予想していた。そして俺は弁護士より同囚の言葉を信用していた。


弁護士より同囚の言うことを信じるなんてどうかしていると思うか?でも担当弁護士の見解を伝えると吉富さんは逆に「その弁護士、本当に大丈夫ですか?」と心配してくれた。


吉富さん曰く、「弁護士は最も悪い結果を想定して行動すべき」だかららしい。俺の担当弁護士が最も良い結果の方を想定して行動している所に疑問を感じたようだ。


執行猶予を想定していて、実際の判決で実刑となったらショックは大きいだろう。納得いかない人は弁護士に「話が違う!」と詰め寄るかもしれない。でも逆の場合だと喜びの方が大きくて気にしない人が多いと思う。


加害者家族にとってもその方が断然良い。

執行猶予と実刑で心構えや事前の準備が変わってくるからな。


俺の担当弁護士は家族に「執行猶予も十分あり得る」と伝えていて、家族もそれを信じ切っていた。

当たり前だ。弁護士の言うことが正しいと普通は思う。


面会時も「もうすぐ出れるね」と両親は言っていた。俺が「執行猶予にはならない。実刑になる」と説明しても、その根拠が同囚の話だと分かると笑い飛ばされた。まぁそれが当然の反応だよな。


ちなみになぜ執行猶予があり得ないのか。

それは求刑年数から分かるらしい。

例外もあるからあくまで参考程度になるが、求刑と判決には相場がある。

反省の度合い、罪状認否、身元引受人、被害弁済、被害者感情、社会的な影響、その他諸々の理由を元に量刑は決められる。


求刑6年、認め事件、被害弁済ありの俺の事件だと求刑から1年〜2年減刑して4年〜5年の実刑のパターンが多いらしい。

執行猶予の場合、この減刑は基本ない。

執行猶予の可能性がある求刑は3年半以下だ。


例えば、求刑3年だと判決も懲役3年、執行猶予5年となる訳だ。求刑6年の時点で前提条件が崩れている。なぜ弁護士が執行猶予の話をするのか村山さんは首を傾げていた。


もちろんこの前提も絶対ではない。でも可能性が限りなく低い以上、安易に言うべきではないよな。


そして結果はどうなったか。

俺は懲役4年の実刑判決だった。

思ったより嬉しい判決だ。

懲役5年半という可能性もあったのだから。


判決後、まず弁護士が面会に来た。


「執行猶予にならなくてすいません。

もし伊達さんが良ければ、控訴しましょう。

もう少し良い判決になるかもしれません」


俺は少しうんざりしながらも、検討しますとだけ言って弁護士を帰した。その後、両親が面会に来た。


「執行猶予じゃないとは思わなかった。

執行猶予になるかもしれないから控訴しよう」


被害者感情を考えれば、調子の良いことを言ってるんだ、ちゃんと罪を償えと思うかもしれない。でも自分や家族が当事者だと考えてくれ。そして自分本位に考えてしまう俺たちを許してほしい。


俺は控訴はしないと決めていた。それはあまり意味がないから。その理由も説明する。

控訴する意味があるのは主に三つのケースだ。


一つ目は判決後、裁判を有利にするものが出てきた時。例えば被害者が厳罰を望まないという書面を出したり、犯罪事実が実は軽微なものだと判決後に判明した時などだ。


まぁ滅多にない。だって最初にやれることは全てやる。判決前に出なかったものが、判決後に都合良く出てくる事などほとんどない。

仮に出てきても、それで判決が良くなる保証もない。それを示す面白い話がある。


傷害事件で捕まった奴がいた。

仮にAとしよう。

Aは被害者に慰謝料として50万円渡して示談した。その結果、求刑3年、実刑2年の判決を受けた。


実刑判決になると思わなかったAは慌てた。

慰謝料が少なかったからだと考え、今度は200万円を被害者に渡し、加害者に厳罰を望まないという書面を新たに取り付けた。そして、自信満々で控訴した。


その結果、控訴は棄却。

判決は変わらなかった。

200万円渡しても意味はなかったんだ。


後で聞いたところ、判決後に慰謝料を積み増す行為は裁判官の心証が良くないらしい。

確かに反省の念からではなく、量刑を軽くしたいという気持ちが見え見えだからな。有利な事柄が出てきても無意味な場合もあるんだ。


二つ目は争点がある時。

否認事件が分かりやすい。

見る人によって心証が変わるような争点がある場合、多くの裁判官に判断してもらう方が良い。

実際、それで刑が軽くなるケースもあるからな。


三つ目は特殊だ。

刑の執行を伸ばしたい時。

判決が出て、控訴をしないと2週間で刑が確定する。理由は様々だが、ただ刑務所に行く日を先延ばししたい奴も控訴、上告という手段を使ったりする。


邪道だよな。でも、そういう奴は結構いる。

冬場の刑務所は寒いから夏場に行きたい、お菓子を満足するまで食べた後に行きたい、辛いことは一日でも長く先延ばししたい……

呆れるほどの理由の奴もいる訳だ。


控訴、上告していても取り下げる時期で、刑確定の時期を調整できるからな。

控訴、上告で遊ぶ犯罪者も少なくないが、本当に税金の無駄遣いだと思う。制度だから仕方ないが。 


俺が控訴しなかった理由はいずれにも当てはまらないからだ。量刑が不服だからといって控訴しても、量刑が軽くなる訳がない。

刑の執行を伸ばすつもりもなかった。

むしろ早く社会に復帰したかったくらいだ。


どうして弁護士が控訴を煽ったのか、いまでも分からない。国選弁護士だから、利益の為とも考えにくいし…若い弁護士だったから経験不足なだけかもしれないが、真相は今でも謎だ。


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