入所2
しばらくして護送車が拘置所に着いた。
拘置所の正門を通り、分厚いシャッターで閉ざされた拘置所内部の入口に向かう。ゴゴゴゴゴと漫画にあるような鈍い音を立ててシャッターが開くと、奥にもう一つ分厚いシャッターがあった。二重シャッターか、ご苦労なことだ。
二重シャッターを通り過ぎた先には学校の中庭のような敷地があり、護送車はそこで停車した。そして手錠を付けられたまま、他の移送者と一緒に車を降りる。
中庭はひびが入った無機質な建物でぐるりと囲まれており、俺は母校の小学校を思い出したのだが、小学校とは大きな違いがあった。それは窓には鉄格子がはまり、安っぽいトタンで中が見えないようにされていたこと。
トタンの向こうには人影がぼんやりと映り、動いている様子が分かる。彼らは囚人だろう。刑務官ではあるまい。
俺はこれから彼らの仲間入りをすることになる。暗い気持ちと諦めの入り混じった複雑な気持ちだ。
拘置所に入れられて刑が確定していない者は正確には未決拘禁者という。刑が確定し執行されてから初めて受刑者となる。囚人は通称で、未決拘禁者も受刑者もどちらも指す言葉だ。
護送車から降りて警察官に案内された部屋では、刑務官による持ち物検査があった。
ここで手続きが警察官から刑務官に交代する。
持ち物検査は留置所でも受けていた。
だから財布、携帯、紐などが持ち込めないことは当然知っていたが、他にも持ち込めない物があった。
それは柄の入った靴下や留置所で購入した洗面道具だ。どうやら留置所では許可されても、拘置所では許可されない物があるらしい。それらは拘置所で買いなおす必要がある。余計な出費だが仕方ない。
持ち物検査が終わった後は、シャワーを浴びて身体検査が行われた。これは体内に何も隠していないか、金玉に何も仕込んでいないかという検査だ。
この検査はいわゆる「玉検」というもので、陰部に玉などの異物入れていないかを見る。
俺はいまだに理解できないが、陰部にそういう処置を施す人がいて、入所前にすることは問題ないのだが、入所後も中でそういうことをする人がいるらしいのだ。
もちろん玉に入れる物などある訳がないので、不正な手段で準備するしかない。
娯楽用の碁石や歯ブラシの柄の部分を削ったりなど様々な物で代用するという噂だが、俺は昭和初期の話ではないかと思う。
バレたら規律違反行為で懲罰対象になるし、俺のいた拘置所では同囚に馬鹿にされる行為だからだ。
少なくとも俺がいた期間、そういうことをする奴はいなかった。