未決の囚人たち3
コンビニは郊外にある店を狙った。
時間帯は深夜。
店員が一人でお客もいないタイミングで決行した。
結果はうまくいった。
誰も傷付けることはなかった。
でも店員さんには本当に悪いことをしたと思っている。彼は20代の若い青年だった。俺はバラエティでよく見るような「慣れない男が必死に強盗する」という感じになっていたと思ったが、それがトラウマになったと後で言われたからな。そういう意味では傷付けたといえる。
もし俺が店員さんに触って引っ掻き傷でも付けていたら、強盗致傷罪が成立し、刑期が倍になっていた。強盗致傷罪は本当に重罪だ。6年以上の懲役が科せられる。逃げた万引き犯を店員が追いかけて、万引き犯が店員を突き飛ばした場合でも成立するのが強盗致傷罪だ。これは事後強盗というんだがな。
そんな訳でコンビニのレジからお金を奪い逃走した。驚いたのは犯行から5分くらいでパトカーのサイレンが鳴り響くのが聞こえたことだ。最寄りの交番から急行したんだろうが早すぎる。
まず俺は現場から離れた所に全速力で走っていき、そこに隠しておいた着替えで服装を全て変えた。そして緊急配備が怖かったから、徒歩で帰る予定を変更し、タクシーを使った。タクシーは現場から1キロ以上離れている所で捕まえたから大丈夫だろうと思ったんだ。タクシーで降りる場所も俺の家とは少し離れた住宅街だった。
犯行後は家に帰ってお金を数えた。
千円札が40枚くらいあり、一万円札と五千円札が数枚で合計7万円くらいあったかな。このときの俺の感情は「やってしまった」という後悔、「やったぜ」という達成感、「捕まったらどうしよう」という焦り等々で色々混ざった複雑なものだった。
犯行時刻は朝の5時。
平日だったから次の日は仕事だ。
寝ずに出社したが、当然仕事は全く身に入らなかった。会社のパソコンで頻繁に朝のニュースをチェックし、どういう報道がされているかを確認した。
2〜3日後に顔を隠した強盗犯の拡大写真が県警のホームページにアップされているのを見た時の心臓はやばかったな。知り合いがこの写真を見たら、俺だと気付くんじゃないかとハラハラしたものだ。
結局、俺だと気付く者はいなかったが。まぁ身近な知り合いが強盗犯とは普通思わないよな。
その後転職し、俺は別の街に移り住んだ。
そこで10ヶ月ほど生活した後、俺は逮捕された。
いつも通り朝出社しようとしたら、マンションの前に刑事が7〜8人いたんだ。前触れは何もなかった。
本当に驚いたよ。ドラマやバラエティの再現VTRにあるような感じで私服の刑事達が突然現れたからな。
「伊達さんだね。我々が来た理由は分かってるよね」
第一声がこれだった。
「え…何のことですか?」
当然、俺は知らないふりをしてとぼける。
「とりあえず君の家に行こうか。
ここじゃ他の人に迷惑になっちゃうから」
「今から会社なんで。困ります」
「いいから、いいから」
刑事は家宅捜索令状を持っていた。
拒むことはできない。
仕方なく俺は刑事を家に連れて行った。
家宅捜索令状を見た時点で俺は全てを諦めていた。
一切証拠を残していないつもりだったのに、実際は俺だと特定できるだけの何かがあって、裁判所が家宅捜索を許可している。刑事を家に入れた後、俺はあっさりと罪状を認め、何もかも喋った。
ちなみに警察は家宅捜索の10日前から俺を内偵していた。通勤ルートはもちろん、俺が逃走した時の逃走ルートを数パターン考えて対策していたらしい。逃げる奴がいるからな、と担当の刑事が笑いながら言った。パニックになって後先考えない行動をする犯罪者を何人も見てきたのだろう。
引越し先の県警に昼頃連行され、逮捕状が出たのは17時頃だった。その後、手錠をされた状態で2時間ほど新幹線に揺られながら事件を起こした県の県警に向かう。新幹線で移動というのは意外だったな。
手錠は刑事が着ていたスーツの上着にくるまれて隠されていたが、厳つい男7〜8人に囲まれての移動だったから、見る人が見たら気付いたかもしれない。
そうだ。
俺だと特定した証拠は何か分かるか?
俺は指紋も素顔も何も残していない。
タクシーのドライブレコーダーには素顔が映っているが、服装が全く違う。
逮捕された当初は刑事も教えてくれなかったから、留置所に行った時は罪状を認めたことを後悔した。
否認を貫けば逮捕されなかったのではないかと。
そのことを刑事に言うと、俺が否認した場合の刑事側の筋書きを教えてくれた。
家宅捜索で証拠となる物証、具体的には犯行時に使われたであろう衣類、靴、サングラス、マスクなどを家から押収した後、警察署に任意同行させ、ポリグラフ検査という嘘発見器にかける。
それでも否認したら、その日は逮捕をしない。次の日から、仕事終わりに任意同行を何度かさせ自白を促す。自白しなくても物証から可能であれば逮捕するとの事だった。
物証から逮捕できなければどうするつもりだったのかという疑問はあったが、考えても仕方なかった。
物証はあったのだから。
俺は犯行に使った衣類を捨てていなかった。
サングラスやマスクは捨てていたが、帽子やジャンパー、靴などは捨てられず持っていたんだ。
そして俺だと特定された証拠は帽子だった。
茶色の何の変哲もないニット帽。
俺はこれを事件の一年前にスポーツ用品店で購入した。
だがこの帽子は県内であまり売れなかった物らしく、数十品しか販売されなかった。確かに帽子に一本黒いラインがあり、特徴があるといえばある。
その販売記録から俺が浮上したんだ。
おマヌケだろ?
そんな珍しい帽子で犯行に及ぶなんて。
大馬鹿としか言いようがない。使っている俺自身は珍しいという実感はなかったが関係ないな。
俺の話はこんな所か。
結局、俺も同囚と同じレベルの馬鹿だったと言う訳だ。




