表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/37

未決の囚人たち2


俺の事件はコンビニ強盗だ。



……




ほら。

さっそく馬鹿にした。


実際とんでもなく馬鹿だと思う。

ニュースになる事件の中で、コンビニ強盗は割に合わない犯罪の一つだ。


得られる実利に対し、失う物が余りにも大きい。

強盗罪は重罪で、法定刑では5年以上の懲役が科せられる。それにも関わらず、コンビニには数万円しか置いていない。強盗しても得られるのはわずかなお金なのだ。


例えば窃盗は10年以下の懲役、または50万円以下の罰金が法定刑である。軽ければ罰金のみも全然ありえるんだ。

初犯の万引きに懲役刑を科すのは違和感があるだろ?でも初犯とはいえ、被害件数が数百件、被害金額が数千万円の空き巣犯は懲役でも仕方ない。一時期話題になった金塊窃盗は初犯とはいえ、限度に近い量刑を科せられていたな。


そんな訳で犯罪者の間で、コンビニ強盗は本当に馬鹿な犯罪とされている。コンビニ強盗をするくらいなら空き巣や車上荒らしをすれば良い。その方が刑は軽いし、実利も大きい。


こう言うと、そもそも犯罪をすべきでないという「そもそも論」を出す奴がいるが、犯罪者に正論は不要だ。切羽詰まっている奴は正常な判断ができない。沢山ある解決策のうち、犯罪という愚かな選択するくらいだ。正論なんて通用しない。事件前の俺のように。


当時の俺はギャンブルが大好きだった。休日はほぼパチンコ、スロット、麻雀に費やしていた。

その結果、当然のようにお金がなく、消費者金融に限度までお金を借りて、その返済に追われる毎日だった。

でも、苦しい中でなんとかやり繰りして回していた。それがある時破綻したんだ。


きっかけは今でも覚えている。

そのとき、俺は雀荘に遊びに行っていた。

点ピンだが、人生が破綻するほど高レートでもない。

そこで負け続けた末の一局。


俺はその月に払うべき家賃さえ軍資金として持参し、すでに使い込んでいた。本当に後がない状況。

だか、ようやく運勢が上向く気配がみえていた。


点棒では安定の勝ちがみえる状況。

南4局、俺は西家で点数は6万点越え、親は2万点だが南家が3千点くらいしかなかった。南家は親満ツモで飛んでしまう。麻雀をしたことがある奴なら分かるだろうが、これを逆転するには親が役満を上がるくらいの奇跡が必要だ。


俺は直撃だけが怖かった。

だから直撃に気を付けて、状況によっては他家に差し込んでも良いと思っていた。これで逆転されたら、犯罪でもして家賃を払おう、そんなことを冗談ぽく考えていた。


そして開局する。

ところが親がなかなか牌を切ろうとしなかった。彼は熱心に牌を並び変えている。

早く切ろよ。

そんなに配牌が良いのか。

そんなことを考えながら自分の配牌を並べていると親のうわずった声が聞こえた。


「あ、上がってます。天和です」


そう言ってパタリと牌を倒す。

ちなみに親は雀荘のメンバーだった。

素人が慌てて倒した訳ではない。

俺はまさかと思い確認したが、本当に上がっていた。

33万分の1という天文学的難しさ、まさしく奇跡とされる天和を目の前で上がられたのだ。


コツコツ打ち回して6万点まで稼いだ点数を一瞬で親に逆転された。麻雀では2位にあまり意味はない。むしろ今回は役満賞があるから、4万点の点数があってもマイナスとなる。


俺は麻雀が好きだから、20年近く麻雀をしてきたが、天和を間近で見たのはこれが最初で最後だ。

運命を感じてしまった。

ああ、これで俺は犯罪者になってしまうに違いないという悲しい運命を。


実際、その時俺の何かが壊れた。

お金に困った時、選択肢の一つに犯罪行為が頭をよぎるようになったのだ。


カッとなって人を殴ったり、交通事故で人をはねてしまうなど衝動的、突発的犯罪行為を除くと、犯罪のほとんどは犯罪行為を身近に感じている人間が起こすものだと俺は考えている。

つまり、問題が生じた時、通常の選択肢と同じように犯罪的な選択肢も浮かぶ人間だ。


イライラしたときに覚醒剤や大麻の使用が頭に浮かんだり、赤ん坊が泣き叫んでいる時に殴って黙らそうと思ってしまったり、お金がない時に財布を盗むことを考える人間は、問題が起きたとき簡単に犯罪というハードルを越えてしまう。


当時の俺もそうなっていた。

あの麻雀で逆転された時以来、ずっと犯罪的にお金を得る手段を考えるようになっていたのだ。


コンビニ強盗を決意した時、所持金は1万円しかなかった。明日の家賃も払えない。すでに2ヶ月分滞納していて払えないと追い出されてしまう。

一応、社会人だったが、借金地獄に陥っていることなど誰にも相談できなかった。犯罪をすれば解決するという、謎の先入観があったからな。


馬鹿だろう?犯罪行為に走るより、誰かに土下座でもしてお金を借りた方が良いに決まっている。でも正常な判断ができない精神状態に陥っていたんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ