入所1
俺が服役したのはとある拘置所だ。
場所はふせておく。8つしかないからな。バレても面倒だ。勘の良い人は話の流れで分かるだろう。
ちなみに刑務所ではない。そのあたりも後々説明していく。
その拘置所は繁華街のすぐそばにあり、空港や駅からも近かった。栄えている街だけに犯罪も多く、全国ニュースに取り上げられる事件も少なくない。俺の事件も全国ニュースになった。
え?探してみようかって?無駄だ。もうネットニュースには残っていない。
まぁ探したくなる気持ちは分かる。俺も出所後、同囚の事件を随分探したからな。
そんなことより、俺の話を聞いてくれ。聞いてみて、何を思いどう感じるかはきみたちの自由だ。
前置きが長くなった。さっそく始めよう。
俺が拘置所に入ったのは気温が高くなり始めた7月の初旬だった。
留置所から拘置所に移送される朝は緊張した。なにしろ初めて拘置所に行くのだ。
留置所で同房になった服役経験者から色々と話は聞いてはいたが、聞くのと実際に行くのでは全く違う。刑務官に何を言われるか、同室の人間からいじめられたりしないのか、心配事はつきなかった。
留置所から拘置所に移送されるときは窓枠に鉄格子がはまった護送車に乗せられた。当然手錠付き。
一人の囚人に一人の警察官がつくという徹底ぶりだ。そこまでしなくても逃げないのにと思うが、最近は脱走した囚人のニュースを見ることがあるので、仕方ないことなのだろう。
疑問なのは脱走する奴の考えだ。ただでさえ逮捕されて人生ハードモードになっているのに、脱走し全国区で悪名を轟かせることでハードモードを最凶レベルに格上げしてるようにしか思えない。
犯罪を犯すような人間の思考回路を考えても仕方ないのだが。まぁ俺も同類か。
朝9時に留置所を出た護送車は、俺も見慣れた繁華街を通り抜けていく。護送車はフルスモークで外から中が見えないのは当然だが、車内にもカーテンが引かれ基本的に中から外も見えない。しかしそのときはカーテンの隙間からわずかに外の様子が見えていて、俺はずっとそこを凝視していた。
護送中は会話も禁止。俺も含めて警察官ですら暇そうにあくびをしていた。これから俺はどうなるのかという不安はあったが、同時に何もできない時間は暇だった。そこでカーテンの隙間から見える光景を目に焼き付けることにしたのだ。
俺の刑期は4年。赤ちゃんが物心着くようになるほどの期間、俺は塀の中で過ごすことになる。
子供がいなくて良かった。子供がいたら耐えられるか自信がない。いつもなら特に意識しない光景だが、しばらく見れなくなると思うと感慨深い。そんなことを護送車の中で考えていた。