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拘置所生活 初日8


吉富さんは手早く準備すると扉の前で正座をした。

手は膝の上に置き、姿勢を正している。

刑務官が「よし」と言い、扉をガラガラと開けた。


「312番!出ます!」


「よし!!」


吉富さんが立ち上がる。

刑務官は吉富さんの脇と腰を検身して、彼を部屋の外に出した。吉富さんは刑務官が扉を閉める間、壁を向いて待機している。慣れたものだ。

刑務官は扉を閉め、彼を連れていった。


「面会ってあんな感じなんですね」


「ん?ああ、そうだね。

面会のときは吉富さんみたいに正座してオヤジの合図を待って出ていけば良いよ」


村山さんが面会時の流れを教えてくれた。

部屋を出るときも入るときと同じように「称呼番号。出ます」と言って出ていく。

待つときは部屋では正座、廊下では壁を向く。

歩く時は行進して歩かないと怒るオヤジがいるので注意しないといけないらしい。


面会時間は最大30分。1日2回まで。

未決拘禁者は必ず刑務官が同席しメモを取る。

だから、面会時に違反事項を話してはいけない。

漫画を借りたとかお菓子を貰ったなんて言おうものなら刑務官の記録に残り、それ以後は要注意人物になる。

証拠がないからその場で連行はされないが、「コイツは拘置所をなめてる」「不正をする奴」と見られて、刑務官がこっそり見張ったするらしいのだ。部屋の皆が迷惑するから、話す内容は十分注意が必要だ。


「吉富さんは奥さんが毎週来てて、弁護士も頻繁に来るから面会は多いよ。差し入れも毎回あるし」


村山さんはよく見ている。

確かに棚に置かれている本や着ている服が綺麗だと思っていた。村山さんや吉富さんは、林さんや松山さんと比べて持ち物に清潔感がある。

面会が頻繁にある人とない人の差かもしれない。


1時間経っていないくらいの時間で吉富さんは帰ってきた。心なしか表情が明るくなっている。

やはり、息が詰まる拘置所生活で家族に会える面会は癒しになるに違いない。


「どうだった?」


「いやーいつも通りですよ。

毎週来なくて良いって嫁には言ってるんですけどね」


村山さんの問いに吉富さんが苦笑いで答えた。


夫が窃盗で捕まる。

奥さんはどんな気持ちになるだろうか。

逮捕から時間は経っているが、面会にはどんな想いで来ているのか?そのことを俺たちはしっかりと考えないといけないんだがな。


だが、拘置所生活でそれは結構難しい。

いや、しっかりと考えて良いが、それを周囲にアピールしてはいけない。皆言われなくても分かっていることだからだ。


相談とかは別だ。悩みがあって相談したいなら相手を選んですれば良い。

親身になってアドバイスしてくれる奴もいるだろう。俺が言いたいのは、逮捕されたことで陰気くさい暗い奴になるな、ということだ。

まぁそれは娑婆でも同じか。


吉富さんが戻ったタイミングで廊下が慌ただしくなった。遠くで昼に聞いたガコンガコンという音が聞こえてくる。


「お、そろそろ晩ご飯ですね。準備しましょう」


「もう晩ご飯ですか?」


昼ご飯から、それほど時間が経っていない気がする。

ここには時計がないから正確な時間は分からないが、3〜4時間くらいか?


留置所、拘置所、刑務所には時計がない。

厳密に言えば、拘置所、刑務所の作業場とか風呂場には時計があるが、部屋にはまずない。


理由は諸説ある。

刑罰だから時間を知らせないことも罰の一つになる、刑務官の見回りの時間を把握させない、囚人同士の共謀を防ぐ為等と言われているが、俺は慣習になってしまっているからだと個人的に思う。


意味がなくても続けていることは世の中に沢山あるだろう?飲み会の席位置とか、手紙の枕詞とか慣習は沢山あるが、ほとんどの人は「そうなっているから」ということで疑問を持たない。


無意味ではないだろう。

飲み会の下座には下っ端なりの役割があるしな。

枕詞もあるなしでは、受け取る側の気持ちが違う。


しかし、本当に必要か?と言われて完璧な説明ができる奴は少ないのではないか。

個人的な意見だ。聞き流してくれ。


それと拘置所の晩ご飯は早い。

なんと16時だからな。でもしっかり食べないと、夜にお腹が空くから注意が必要だ。



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