拘置所生活 初日7
パンツ一つで、同囚が神に見える。
聞く人が聞けば馬鹿だと思うだろう。
でも俺と同じ境遇に陥った場合をきみたちも考えてほしい。
7月の暑い時期、8畳の閉鎖空間に着替えも本もない中放り込まれ、3日間過ごさねばならない。
果たして耐えられるだろうか。
罪を犯して拘置所にいる以上、当然耐えなければならないのだが、そこに手を差し伸べてくれる人がいれば、神に思えても仕方ないと俺は思ってしまう。
結局、吉富さんだけでなく、村山さんもシャツとタオルをくれて、本も貸してくれた。
俺は本当に大きな恩を感じた。
その後、吉富さんとは長い付き合いになったが、それもこういう縁があったからかもしれない。
ちなみにこの時は知らなかったが、拘置所には官物と呼ばれる衣類があり、着る服がない場合に貸与してくれる。
パンツは真っ白のトランクス、シャツは100均にあるような安物だが、上着やズボンは受刑者が着る物と同じ物だった。色はなんと真緑。
拘置所では運動時間という舎房の皆が集まる時間がある。機会があれば真緑のズボンを履く強者を見かけることができるだろうが、彼は着る服がなく官物を着ているだけだから気にしなくて良い。
俺は村山さんと吉富さんに衣類をもらい本も借りた。
彼らに感謝の気持ちを抱きながら、自分の席で借りたジャンプを読む。
娑婆にいた頃から、ジャンプは毎週欠かさず読んでいた。捕まってから、当然読むことはできなくなったから、雑誌を開くのは2ヶ月ぶりだった。
久しぶりでワクワクしながら読み進める。
連載物ばかりだから、内容は分からなくなっていた。
でも連載物の漫画が読める楽しさが勝っている。
あっという間に借りた4冊を読んでしまった。
「ありがとうございました。
良ければ、また今度違う本も読ませて下さい」
村山さんにお礼を言う。
そして、廊下に刑務官がいないことを確認して本を村山さんの棚に戻した。
ほとんどの刑務官が本の貸し借りを黙認しているとはいえ、全員がそうではなかった。見つけた瞬間すぐ懲罰行為として連行する刑務官もいるから、念の為周囲を確認するように村山さんからアドバイスを受けていたのだ。
そういう刑務官は危険人物とされ、囚人の間ですぐ知れ渡った。彼らには常識や理屈が通用しない。もし些細なことでも違反行為が見つかれば、怒号を浴びせかけられ、ときには連行された。
一日に1〜2回はどこかの舎房で怒鳴り声が聞こえてくるのが拘置所だ。最初は何だ?何が起きた?と驚き、恐れたものだった。次第に慣れてしまうんだがな。
一息ついて回りを見る。
村山さんと相田さんは本を読んでいる。
吉富さんはノートを開いて勉強している。
林さんはナンプレをしている。
松山さんは布団を敷いて寝ていた。
俺は思わず二度見してしまう。
え、寝るの早くないか?まだ昼過ぎだぞ。
拘置所では就寝時間以外、横になることができない。
横になるには横臥許可という許可が必要だ。
ただ、午睡といって、昼ご飯を食べた後は布団を敷いて寝ることができる。そのまま本を読んでも構わないから、午睡の時間を利用して寝る囚人は少なくない。
ちなみに留置所は、いつ横になっても良いんだ。
留置所では皆は大抵寝っ転がって本を読んでいるが、布団がない。布団は就寝時に部屋の外にある倉庫から自分で持ってくるからな。日中寝るときは畳で横になるしかないんだ。
寝心地は最悪だったな。
俺は初日に布団を敷く勇気はない。
時間もあるし、また他の本でも借りて読むか。
俺がそんなことを考えていると刑務官が9室の前に来た。
「312番。面会」
「はい!」
吉富さんが元気良く答える。
吉富さんは急いでTシャツを着て、机を壁側に寄せる。さすがに面会時に上半身裸体はダメらしい。