◾️プロローグ◾️
俺は本当に頭が悪い。それは以前から分かっていたことだ。
だから、いつか罪を犯すかもしれないと思っていた。
俺はもう38歳。ある同級生は結婚し、子供が3人いる。ある同級生は5年勤めた会社を辞め、自分で会社を立ち上げた。ある同級生は出世し、海外に赴任中だ。みんな年相応に社会生活を営み頑張っている。
頑張っていないのは俺だけだ。
昔はこうじゃなかった。高校は真面目に行き塾にも通って、それなりの大学に進学。大学では一般的な大学生と同じく遊びはしたが、ちゃんと勉強もしていた。それが今や前科者。どうしてこうなったのか。
テレビでは、よく事件の報道をしている。ひったくり、空き巣、覚醒剤使用、強盗、殺人。ときには立てこもり事件なんかも起きている。
でも、それらのニュースを見て抱く感想はほとんどの人が同じだろう。
馬鹿だなぁ、借金でもしてたのか、育ちが悪いんだろう。そして最後にこう思うに違いない。まぁ俺には関係ないか、と。俺もそう思っていた。当たり前だ。世の中の大部分の人は、これまで犯罪に無縁だっただろうし、これからも無縁だ。そういうものだ。
でも俺はもう違う。犯罪行為を経験し、犯罪は身近なものになった。服役したことで多くの犯罪者と知り合い、彼らから犯罪行為に至るまでの過程を聞いた。本来ならば知る必要のない話。でも服役した人は、ほぼ例外なく知ってしまう。残念なことだ。
たまたま、このページを開いてしまったきみたち!非常に良い機会だ。拘置所と刑務所がどういう場所か教えよう。そして、犯罪者の真実を知ると良い。
飽きたらページを閉じて、他の興味がある事柄に心を移してしまって構わない。無理に知る必要のない事柄だ。生活が豊かになる訳でもなければ、教養が身につく訳でもない。せいぜい僅かな雑学が増えるくらいだ。なら、何のために俺の話を聞くのか。
実は俺にも分からない。だから話を聞いてみて、きみたちなりに考えてほしい。加えて言うなら、俺の話を聞いて「こんな馬鹿な人間がいるのか。俺はこうなるまい」と反面教師にしてくれたらありがたい。俺の話にも少しは意味が出てくる。
俺が過去を話せる人間は限られている。犯罪行為を知っている家族、友人、保護司だ。間違っても職場の同僚や出所後に出会った友人には話せない。話せばドン引き間違いなしだし、職場の人間に知られれば経歴詐称でクビもありえる。
出所後の就職活動では、当然のように服役期間は病気療養をしていたと嘘をついた。当たり前だ。服役していたなんて言えば、どこにも就職できない。だから仕方なく嘘をつく。俺は、これからもこういう嘘をつき続けないといけないだろう。
心配なのは結婚のときだ。結婚相手にはさすがに嘘はつけない。真実を告げたとき、相手はどういう反応をするだろうか。怖くてたまらない。
しかし、それも俺が背負った十字架だと受け入れるしかないのだ。