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名前




最近、神社に一匹の犬が迷いこんで来る。

痩せこけて、汚れた野良犬だろう。

雨を凌ぎに境内の庇に身を隠している。



「あの犬ッコロまた来たのか。まったく、ここは神社ですぜ?預かる場所じゃねえ」


リシがご機嫌斜めだ。

なんかトラウマでもあるのかな?

言いながら、少し毛が逆立っている。

イタチの神徒だしなあ.....。



そのワンちゃんには、一人のお爺さんがエサをちょこちょこやっていた。

お爺さんは、独り身のようでこのワンちゃんに会うのが楽しみで神社に来ている様だ。


それはまあ、ほどほどならいいかと神鏡で様子を見ているんだけど、なんかモヤモヤというか、引っ掛かるモノが心にあった。


「おお、今日も来ていたか!ホレホレ今日のご飯はちょっと豪華だぞ!」


「えらい、泥んこじゃないか。お前結構ヤンチャだな?」


「すまんねえ......。今日はこれだけしかない。これしかないけどお食べ」


.......ああ、そうか。

お爺さん、このワンちゃんを名前で呼んでいないんだ。

名付けをしていない。

私にも名付けが無いから、引っ掛かったんだ.......。



──どしゃ降りの雨の日。そのワンちゃんはまた神社に身を寄せに来ていた。


私はワンちゃんと対話してみようと思った。

イヤホンを耳に。マイクを口に。


「ねぇ貴方。貴方はお爺さんと会えて嬉しい?」


(嬉しい!今日は会えてないけども、一緒にいたい)


「それが貴方の望み?」


(うん。でももうひとつ)


「何かしら?」


(僕を名前で呼んで欲しい)


「そう。そうなの」


このどしゃ降りの雨の中、傘をさしてヨロヨロと歩いてくる人がいた。

こんな日は、このワンちゃん以外参拝者は来ないんだけど、来たのはお爺さんだった。


「やれやれえらい雨だなあ。やっぱり来とったか。よしよし」


頭を撫でられて気持ち良さそうなワンちゃん。

お爺さんはお賽銭を入れて、

いつもお邪魔してるものなあ..。

と少し申し訳なさそうな顔をする。



私は、袖を振るった。



お爺さんの頭にコツンと犬の首輪が落ちる。

お爺さんは不思議に思いながらも、それを手にして

少し寂しそうな顔をする。



「ワシも先が長い人間じゃないらなあ.....」


ザーザーザー


激しい雨の中、お爺さんがポツリとこぼした。



「ワン!」


私は口を挟む事にした。

マイクをつけて、お爺さんに。


「その子を名前で呼んであげて」


声が届いてもお爺さんはさほど驚かず、



「そうだよなあ。神様もいてもおかしくないか。神様の計らいか。.......よし。ワシは老い先短いが、お前うちの子になるか?」


尻尾を振るワンちゃん。


「お前は今日から三郎丸だ!」


「ワン!」


ワンちゃんは、名前が気に入ったのか尻尾をパタパタ振りながら、お爺さんの周りをクルクル回った。


「そうか。そうか、嬉しいか!よしよし一緒に帰るか、三郎丸!」



お爺さんと三郎丸が、夕焼けの中神社の境内を去っていく。いつの間にか雨が上がっていた。

私は、その姿を見送りながら思う。

少し羨ましく思う。


「私も、いつか誰かに名前で呼ばれたいなあ......」


続く

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