お約束
ポリポリ。お供え物のポテチの塩味をかじりながら私はぼやく。
「ヒマだなー」
町のはずれにある、紙氷神社。
古びて寂れたボロボロの社を構えた神社だ。
私は縁あって、ここで神様をしている。
この間の初仕事を終えて以来、ロリコンのマゾ男ばっかり神社に押し寄せて、お願いというより、汚い願望を聞かされ過ぎて、スルーするのに難儀した。
幼女にお仕置きされたい男が、この町にはこんなに溢れていたのか、と思うとこの町大丈夫か?と、世紀末を感じずにはいられない私だった。
でも、美味いなポテチ塩味。ロリコンどもは嫌だけど、お供え物のセンスは分かってる。嫌いじゃない。
ポリポリ。うん、美味い。ここにコーラを飲めば。
「ぷはあー!!世は最高の気分じゃ!」
成る程。神様の仕事サボりまくって、こもり続けてたトト様の気持ちもちょっと分かる気がする。のんべんだらりと、食っちゃ寝して、下界を鏡でウオッチング。やめられませんな。
.......と、お客さんだ。若い20代ぐらいの男が1人。気分がいいから聞いてみよう。イヤホンを耳にはめる。悩める子羊の思考が聞こえてくる。
(お願いです!神様!偉くなれなくてもいい!僕は、ただ人を笑わせたいんです!お笑い芸人になりたいんです!)
ふむ。この間から一件こっち、ロリコン野郎とは違うようだ。よかった、よかった。まだ聞くだけに値する願いだった。
とはいえ、不心得者ではイカンと思い、一応確認してみようと思った。
どこに置いてたかな?あった、あったと、
横に置いてある小型のマイクを口元に近づけて一言。
「べしゃってみ」
「え?小さい女の子の声?神様?はわわっ!駄目だ頭が真っ白になって緊張して、ネタの内容飛んじゃった!神様!カンペ、カンペお願いします!」
なんで、こんなんで芸人やろうと思ったのか.......。流石に無理なんじゃなかろうか?と聞いてみた。
「お主、明らかに向いてないが、何故芸人になろうとした?」
「.......。妹がいるんです。いじめにあって、不登校になった小学生の妹が。もう何年も笑ってない。妹を笑わせたい。動機はそれだけです........」
イカン、思ったより真面目な内容だった。
神様としてちゃんと願いを叶えねばと、気が急いた。
メモしてある手製の神様ノートを開く。
タライと一言書いてある。とりあえず大きめのタライを目の前に著現したが、どうしてタライ?さすがにふざけて聞く願いじゃないだろと、焦っていると、タライを落としてしまった。
「あっ」
ガン!
男の頭にタライが直撃した。
通りすがりの小学生達が、クスクスと笑っていた。痛みで顔を埋めていた男が、その笑い声を聞いて、ハッ!と立ち上がり、お辞儀する。
「こ、これだ!ありがとうございます!神様!」
.......う、うん。落としちゃったのはミスなんだけど、落ちたみたいだし、結果オーライかな?真面目に解決しようと思ったんだけど。まあ、小学生なら、これで笑ってくれるよ。鉄板じゃないけど、テッパンかな?
後日。神様の声が聞こえた!との噂が広まり、やっぱり町のロリコンが、わんさかと押し寄せてスルーするのに難儀する私だった。
続く