タケル
「タケル君、ありがとう」
「呼び捨てでいいぞ。お前名前は?」
「名前無いの、色々あって。名付けをしたら縛られちゃうから」
「?。名前無いの?まあ、家庭の事情はそれぞれっても、それは特殊な気もするなあ。でも、お前でもいいんだけど、それじゃなあ。んじゃ、巫女さん衣装着てるし、仮って事で、巫女って呼んでいいか?」
「う、うん、タケル。よろしくね」
「おう!服屋までもうちょいだぜ!」
私、名前無いの普通に思ってたけど、それで普通に暮らしてたけど。けど、仮りだけど名前で呼ばれてやり取りしてみて、なんだか嬉しい。心がホワホワするな。タケルかあ.......。いい名前だな。名前で呼び合えるだけで、こんなに嬉しくなるなんて思ってもみなかった。
?なんか町に入ってから、周りの人の視線をやたら感じるなあ。って!見られてる!見られてる!
老若男女問わず、温かい視線を受けてる!
中には、ロリコンの嫉妬の視線も!
幼女の少年におんぶされてる姿は、こんなに需要があったのか!甘く見てた!
流石に恥ずかしくなってきた私は、
「タ、タケル!もう疲れとれたから!大丈夫だから下ろして!」
「ん?そうか。そんなに照れんでも。子供なんだから。んじゃ、下ろすけど、危ないから手は繋いで歩こうな巫女」
おんぶから下りられたけど、手を繋がれてしまった......。微笑ましい視線が突き刺さる。
「ちくしょう!羨ましいぜ!」「.......俺が小学生なら.......」
ロリコンの呪詛も聞こえてくる......。お前ら、いいのか?それで。身の危険も感じるので、手を繋いでもらってるのを、ここぞとばかりに、よしとする。乙女は、したたかなのだ。ロリコンを利用させてもらう。
「きゃ!タケル。目の怖いお兄さんがいるよ?」
「大丈夫、巫女。俺の手放すなよ」
ぎゅっと、繋いだ手に力が入る。
ラブラブじゃないか。勝ったな。ああ。
こ、これがリア充か!
町のロリコンに初めて感謝する私だった。
でもタケル、もてるんだろうなあ。
まだ子供というのもあるだろうけど、女の子と手を繋いでも動じないもんな。聞いてみた。
「俺、体の弱い妹がいんだよ。舞って名前のな。だからよくこうして手を繋いだり、おんびしてやってるんだ。まあ、慣れてるっちゃ、慣れてる」
.......はい、すいませんでした。
己の邪心が恥ずかしい。
舞い上がった気持ちが落ち着く。
でも、少し寂しくもあった。名前で呼び合ったり、おんぶしてもらったり、手を繋いだだけで、ドキドキしてしまうのが私だけなんて。
そんな事を思いながら歩いていると、町の服屋に到着した。
連れてきてくれて、ありがとう。じゃあね、バイバイ!となるとこなんだけど、気付けば私は、タケルの服の裾を引っ張っていた。
「服選ぶの初めてだから、一緒に居て欲しい.......」
タケルは戸惑いながらも、二つ返事でOKしてくれた。どうしたんだ私。神様なのに。
店のお姉さんが快く迎えてくれて、そこからはさながら、私の着せ替えファッションショーだった。
店のお姉さんは、
「ちゃんとあの男の子を繋いどかなきゃ駄目よ?」
と、こっそり耳打ちしてくる。なんかバレてる─
タケルにも何か耳打ちをしている。タケルが少し顔を赤くしていた。なんだろ.......?
色んな服を着飾ったけど、男の子っぽい格好の、グリーンのダウンジャケットとに、ベージュの膝までのスカートに、スニーカー。全部、店のお姉さんの見立てなんだけど、今までそっけない感じだったタケルが.......
「それいいじゃん。巫女に似合ってて可愛いと思うぞ」
赤面しながら言ってくれたのが、私の胸をぎゅっと掴んだ!もーなんなのよ?恥ずかしくなってきたけど、すっごい嬉しい!タケルは、ボーイッシュな方が好みっと......心にメモするのを忘れずに、
「これ下さい、お姉さん!」
「毎度あり♪」
とてもいい商売をしたと、満足そうなお姉さん。タケルに、ちゃんとこの娘、送ってってあげるのよ?と、アフターフォローまで完備。
夕日が差し掛かった町を2人で、手を繋いで歩いて帰る。とぼとぼと、無口になって歩く。
ああ、1日が終わる。1日が終わるのを、こんなに惜しく寂しいと感じるのは初めてだった。
そうだ。私は神様。
今日みたいにタケルと過ごすというのは、そう易々出来ない身の上なんだ。
タケルがぽつりと、しかしはっきりした口調うで言う。
「女の子を可愛いと思ったのは、巫女が初めてだった」
この言葉を聞いて、嬉しかった。けど同時に寂しくなった。この言葉に答えを返せない私。胸が詰まるって、こんな感じなのね。タケルも薄々感づいているみたいで、言葉を繋げる──
「巫女は、この辺の子じゃないんだろ?でも、また会えないか?」
「......うん。いつになるか分からないけど。けど遠くでタケルの事見守ってるね。それぐらいしかできないけど」
「待ってるからな巫女」
握手をしてバイバイした。
鏡を潜って神座に帰ってくる。
ぼろぼろ涙が出た。
これが神様の初恋かあ──
出迎えたリシがぎょっとした顔で、出迎えてくれた。
続く