ジンなる人に案内されて
「あんた達は“王器”使えるのか?」
イチハ王たちは容疑者と思しき人物の発見を聞き、黒いセダンに乗り、現場に向かって移動を始めました。
今はその後ろを私達の車で追っている最中。
車に同乗したジンさんがおもむろにそう尋ねてきた。
「愚問というヤツだな、当然使える。世が世なら“王”になる事も出来たであろう、何せ私は三門使いだからな!」
“王器”。
今から300年前に人類が目覚めた超能力の呼称です。
それを限定して使えるものを“王器使い”と呼んでいます。
剣や弓、はたまた本や獣といったものを突如出現させる事が出来、更にその出現させたものには普通では考えられない能力が秘められています。
“王器”は十種類あり、人によって使える“王器”は違い、更にその能力も人それぞれ。
“王器”は“門”と数え、私であれば弓、盾を出せるので二門の“王器使い”です。
そして十門全てを使える人を、“王”と、敬意と畏怖を込めて呼びます。
なので栗田が”王”になれるわけないのですが。
「私は二門、こちらの堂林は一門使えますよ。ジンさんは“王器”は使えるのですか?」
「ああ、一応な」
「ふん。どうせ一門だけだろう? しかも“王器使い”とも呼べん弱小能力」
「栗田」
「まぁそんな感じだ。あ、次を左」
私達の乗るプリ○スが前を走るイチハ王を乗せたセダンとは違う道に逸れる。
「あんた達は・・・、“王器”をどう思う?」
「なに?」
「どう、とは?」
また唐突に変な事を聞きますね、この方は。
「ちょっと漠然としすぎたか。この世界は“王器”によって、個人の武力によって回っている。評議会の人はそれをどう思う?」
まだ漠然としているような気もしますが。
「何を言い出すかと思えば。力ある者が人々を導く、“王器”があろうとなかろうと人の世はそうやって進んできた。自然の摂理だ、どうもこうも無い。」
「へぇ~。成る程、勉強になるよ」
「当然だ、村人」
栗田にしてはマトモなことを言いますね。
「私は・・・。力自体を、“王器”自体を良い悪いと考えた事は、ありませんでしたね。私が生まれたときにはそこに有ったものですから」
「ふうん」
「肝心なのは、そこに既にあるものをどうするか、という事ですから。それを良い方向へと向けていく、それが今の私達の使命なのです」
“王器”によって、得をする人と損をする人がいる。
その格差を、無くすまでは出来なくとも、より小さなものへとしていく。
評議会ならばそれが出来ると、そして私もその手伝いが出来ると、信じている。
「そうか。勉強になったよ」
「それは良かったです」
「ふん。お前はどうせ、“王器”なんて無ければよいのに、とでも思っているのだろう?」
・・・この男は。
「まぁ。今さっき住んでた村をめちゃくちゃにされれば、そりゃね」
「力を持たない下々の者が考えそうな事だ」
「栗田! すみませんジンさん」
「いや、大丈夫だ。・・・この辺で停めてくれ、ここからは歩きだ」
その後、車を降りて傾斜の険しい森の中を歩く最中。
何となく、いや聞くべきではないかもしれないが、不意に思ったことを目の前を歩くジンさんに聞いてしまった。
「ジンさん、あなたは“王器”がお嫌いなのですか?」
「ん? まぁそりゃな」
「いえ、今日の事が起きる前から、あなたは嫌いなんじゃないですか・・・?」
隣を歩くジンさんの顔に変化は無い。
だけど。
「ああ、心底な」
なぜかとても、悲しげであった。
§
「はぁぁ。・・・ケン、いつからだ? いつから居なくなった?」
「うう、村で家の崩壊があった時に・・・」
「クソっ、あの時か! 全員があそこに注目していたから!」
「上手いものだな。毎度毎度」
「ケン!! お前の“王杖”で偽者を出すのは禁止だっただろ?」
「で、でも王命と言われてしまっては・・・」
「家臣を置き去りにして好き勝手するための王命だぞ、全く」
「ここで言い合っていても仕方が無い。とにかく急ぐぞ。あの方が何か仕出かす前にカタをつけよう」
「・・・それが出来た事は一度も無いのでは?」
「言うなケン。悪いのは全部、覇王様だ」
「また釘宮殿からお小言を授かってしまうな」
「言うなレツ。悪いのは全 部!! 覇王様だっ!!」
§
「はぁっはぁっ、おい! まだなのか!?」
「もうそろそろだ」
そう言いながら20分ほど森の中の傾斜を歩いています、篠崎赤音です。
この赤い髪の村人は歩き慣れているのでしょうか、息を全く切らすことなく、時々私達を気に掛けながらすいすい歩いていきます。
それについていく私と栗田、それから秘書官の堂林は息絶え絶えですが。
「そらもうすぐだ」
「まったく、なんで、こんな目・・・おお!」
木々の切れ間から光が差し込んでいます。
最後の力を振り絞り先へ進むと、目の前は断崖絶壁。
ここからなら下を一望できます。
そして眼下の草原には既に“王器”を取り出し、対峙している男性が二人。
確かに安全に戦いを見れそうです。
「成る程。村人風情にしては良い働きだ」
「そりゃどうも」
「・・・。あれは・・・確か釘宮様でしょうか?」
対峙する男の内、一人はイチハ王国の武将、釘宮 蓋。
老いて益々盛ん、といったようないかにもエネルギッシュなご年配の武将。
白い髪を後ろに流し、その眼は眼前の敵を険しく睨んでいます。
そしてその手に持っている王器は。
「あれは、“王槍”?」
「“王槍”呵呵大勝」
ジンさんが鈴宮様の“王器”の名前を教えてくれました。
しかし。
「何故知っているのですか?」
「ん? ああ・・・、そうだな・・・。ファン、だからかな」
「ふぁ、ファン、ですか」
「そう、ファン」
イチハ王国の情報は少なく、その構成員は分かっても使う“王器”の情報まではありません。
評議会ですら知らない情報を、ファンだからとは言え、村人が知っているものでしょうか?
眼下を見下ろすジンさんを疑惑の目で見ていると。
「敵は一人みたいだな」
「そうだな。だが確か犯行は5人という話ではなかったか?」
確かに。
残りの4人は何処に・・・。
「ああ。・・・やはりこっちで間違ってなかったみたいだな」
「え?」
そう言って崖下から視線を切ったジンさんは、今度は森の中に向き直り。
「どういう事だ? 村人」
「ようするに、だ」
ざっ、ざっ、と森の中から現れたのは、2人の、“王器”を持った人間。
「ビンゴってことだよ」
§
「見えました!釘宮さまで・・・!? ジャミングです!」
「ん? 丘の森の中からか!」
「車を降りるぞ、でかい的を狙い撃ちされる。どうやら俺達は敵にも一杯食わされたらしい」
「敵が一人・・・だけですね?」
「陽動・・・なのか?」
「恐らくそんなところだろう。今我々は森の中から“王弓”を向けられているのだろう、さぞかし“強力”なヤツを、な」
「ははっ! 大した戦術だな!」
「笑い事じゃないと思うんですけど・・・」