くずやのお仕事2
「うーん、仏像は余計に・・・」
「あーそうかそうか。お前さんワシを胡乱に思っているんだろう?」
「そんなことは・・・」
「いや、そう思っても無理はない。ワシは千代田卜斎と言ってな、今でこそこんな貧乏長屋で娘と二人暮らしておるがもとは武士なのだ。今はといえば、昼は素読の指南、夜は売卜をして生活をしておる。それでも苦しい生活でな、ワシはともかく娘が不憫でならん。どうか、買ってくれぬか? このとおり、頭を下げる」
千代田さんという人は俺に深々と頭を下げた。
そんな話をされて頭を下げられたら買うしかなくなるじゃないか。まったく困ったなあ。
「あ、頭を上げてくださいよ。買いますから」
「かたじけない。それでいくらになるかの?」
古着や靴ならまだしも拝んたことすらない仏像の値段なんてどうやってつければいいのだろう。
安く買いすぎてこっちが儲け過ぎてもなんか申し訳ないし、損をすればこっぴどく怒られそうだし。
うーん。
「あ、そうだ。とりあえず200文でどうです? で、200文より高く売れたら儲けを半分分けましょう」
「200文、大変ありがたい。しかしな、儲けを受け取ることはできん。200文で買ってそれより高く売れたのならそなたの儲けで良い」
「いえいえ、年頃の娘さんもいらっしゃるのにご遠慮なさらず。それじゃ、200文おいて仏像もらってきますね!」
俺は200文を千代田さんの手に渡し、仏像をかごに入れて再び歩き出した。
「くずーやー。くずーやー」
普段、デスクワークをしている俺は、まともに歩きもしない。
それなのに、今は屑屋の仕事で街中を歩き回る羽目になっており、足はパンパンだ。
そして、200文で買ったあの仏像が売れるのかという不安で一杯で頭もパンパンだ。
「くずーやー。くずーやー」
特に声もかからず惰性で声を出しながら歩いていると、
「おいそこの屑屋!待てい!」
上の方から俺を呼び止める声がした。
声がしたほうを見上げてみると体格のいい男が屋敷の窓から体を乗り出し、俺の方を見ている。
「はい、なにか御用でしょうか?」
「そのカゴの中に入っているものは仏像か?」
「ええ、先程仕入れました」
「そうか、ここでは話が遠いから中に入って参れ。その仏像がみたい」
「承知しました。少々お待ち下さい」
俺は門をくぐってその男のいる屋敷に入っていった。