もどるかのこるか2
「なにぃ? 旅に出るだと? お前頭おかしくなったんじゃねえか?」
井戸の水を汲んでいた大家さんに旅に出ることを告げると、呆れ返ったような声で返事があった。
「いや、未来に帰るためにはですね...」
「次から次へとわけのわからないこと言いやがって。まだ治ってないんじゃないか?」
どうも大家さんは俺が未だ混乱していると思っているらしい。まともに取り合ってくれない
「くずーやーくずーやー」
遠くから声が聞こえると大家さんはその声の主に向かって声をかけた。
「おう、清兵衛じゃねえかちょっとこっちにきな」
清兵衛という男は、満面の笑みでかけよってきた。
「大家さん、ちり紙ですかい」
「ああ、それもあるんだが・・・」
大家さんは俺を見ながら、
「お前ちょっとこいつに屑屋の仕事を教えてやってくれないか」
と言った。
屑屋?
清兵衛という男は戸惑いながら、
「えっと・・・。また、何で?」
と答えた。
「こいつぁ、俺の長屋の井戸端で倒れてたんだ。で、記憶も曖昧みたいでわけのわからんことを言いやがるんだ。挙げ句、旅に出ると言い出しやがった。そんなことするくらいなら、仕事して頭使ったほうが思い出すんじゃねえかと思ってよ」
大家さんがざっと事情を説明する。
俺は置いてけぼりだ。
「いやまあ、いいんですが、あっしも生活がきつくてガキの駄賃くらいしか出せませんよ」
「ああ、それは心配するな。しばらくは俺が面倒を見るから、金はなくたって構わない。世話料だと思ってこいつの働いた分ももらいなよ。な、頼んだよ」
「大家さんの頼みだ、いいですよ。あっしが預かりましょう!」
あっという間に話がまとまってしまい、俺は流されるがまま男についていくことになった。
しばらくは大家さんが面倒を見てくれると言うし、帰るのを焦る必要もないか。