起きたらそこは江戸時代2
目が覚めたとき、俺は全く知らない場所にいた。
まず目を開けてすぐ目に入った明らかに木造の天井。
そして、畳の匂いと、上等とはいえないヘタレきった布団と枕。
起き上がってみると、眼の前には木製の引き戸、その左には流しと水瓶が見えた。紛れもなく土間だ。どうやら俺は四畳程度の和室にいるらしい。
こんなところで寝た覚えはないのだが、一体どうなっているのだろう。これはまだ夢の中なのだろうか?
今の状況に困惑していると、引き戸がガラガラと音を立てて開いた。
扉を開けたのは、お盆を持った着物に帯の着流し姿の男性だった。
「おっと、目が覚めたのかい?」
男は気さくに話しかけながら畳に上がってきた。
「えっと・・・・・・」
次から次へと入ってくる未知の情報に頭が混乱してくる。
「まだ起きたばかりだからな、頭がぼーっとしてるだろ。でも顔色を見るに病気じゃなさそうだ」
そう言いながら男は座敷に上がり、俺が座っている布団の横にお盆を置いた。
「起きてすぐに食えっかどうかわかんねえけどよ、うちのおっかあに握り飯と味噌汁作らせた。よかったら食え」
「あの、俺は・・・・・・」
知らない場所で知らない男に飯を食えと言われてもただただ状況が理解できない。
「ああ、朝っぱらから井戸端が騒がしかったからちょいと覗きに行ったら長屋の連中が倒れてるお前さんを取り囲んで、おいこれどうすんだよっててんやわんやだったんだ。
俺の長屋の前で死なれても困るからよ、開いてる部屋に引きずり込んで看病していたってわけだ」
「井戸端?長屋? すみません、ここ一体どこなんです?」
着物の男はイマイチ状況が飲み込めない俺の質問に不思議そうな顔をし、呆れた声でいった。
「どこってお前・・・江戸に決まってんだろ」
「つ、つまり、と、東京ですよね?」
「あ? なんだそりゃ? 江戸つってんだろ。まだどうかあるか?」
この妙にリアルな和室にこの男の振る舞い、とても偽物には思えないが・・・・・・
「ちょっと失礼」
俺は布団から飛び上がり座敷から降りて引き戸を開けた。
眼の前には舗装されていない道路をまばらに行き交う着流しの人々、その向かいには今開けたものと同じような引き戸が見え、それがずらりと横に並んでいる。
空を見渡しても高層ビルどころか電線一本見当たらない。
そういえば、起きてから車や工事の音すら全くしていない。
最初は夢の中かとも思ったが、俺の視覚、聴覚、触覚、嗅覚がそうでないことをはっきりと伝えてくる。
「な、なんだよ。なんなんだよ」