困惑するカノジョ
直後、握られた影が急速に変化を遂げる。
美咲は、二次元の世界にいるのかと錯覚した。鎌の出現もそうだが、ここから起こる事態も、夢かと思った。
「クロ。今だよ」
「分かってる」
鎌は彼よりも少し大きい物体となり、色を帯びた。
それは、人であった。いや、そもそも既に彼女は、目の前で起こっている出来事は信じられなかった。
人のように見えるそれは、彼と同じような服装で、外套の内側の服は青かった。お揃いのあたり、彼らはコンビのような関係なのだろうか。彼と違って、落ち着いた黒髪を持った青年。しかし、その青年は銀色を帯びた蒼色の眼光を迸らせていた。
その手には、鈍色の光を放つ短剣が握られている。そこから考えられる未来は一つだ。
残酷なはずなのに、反して瞳は極限まで見開かれる。一瞬一瞬が、コマ送りのように、断片的に。けれどとても鮮明に、人の肌の質や、揺れる服の影。それら全てを視認する。
男の腕は白髪の青年に弾かれ、男の首を、その後方にいる男の首も、黒髪の青年がはねとばした。
その後飛び出るであろう赤い液体に、目を瞑りかける。同時に、なんで切り飛ばされた時は見れたのだろうか、という疑問が脳の片隅に思い浮かぶ。
目を閉じる寸前、違和感に気付いた。飛ぶはずのものが、一向に飛ばない。というか、そんなことに気を取られている間に、どこからともなく出した白い袋に男らの体が放り込まれていく。
(プレゼントを出すような袋·········)
彼らの格好から彷彿されるのは、まさにサンタクロース。色はこれまでかという程に真っ黒だが。
幼いような外見をしている彼らだが、その行動はえげつなかった。美咲は唖然として、呆けた。
ようやく、彼女の姿を確実に視認したのか、彼らは美咲に体を向ける。
「あぁ。お姉さん、ごめんね。吃驚しちゃったね」
「シロ、見られてるなら忘却しないと······」
「え、えと。あの」
今度こそ、と言っていいのか、シロと呼ばれた青年は満面の笑みで歩み寄ってくる。その動作は特に怪しくない。最近見たアニメを思い出す。
二次元は、こういうとき、大抵異世界に飛ばされるだの新たな出会いだの、そういうのが定石だ。
まぁ、彼女はそんな儚い夢を持つはずもないが。
彼女からしてみれば、やり方はともかくとして、彼らは命の恩人だ。彼女は彼らを拒む選択をしなかった。




