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第94話 専属護衛

前回までのライブ配信。


『蜂』との戦いでマリカが危機に陥るがルキヴィスに助けられる。更に彼は一撃で『蜂』の1人を倒すが、仲間と思われる長身の男には逃げられる。


マリカが『蜂』の女王かも知れないことが分かる。更に『蜂』の増援が2人やってくるがアイリスとカクギスは圧勝する。


その後、アイリスは親衛隊に合流する。彼女は親衛隊の兵士としてもアーネス皇子に気に入られ自分専属の護衛にならないかと持ち掛けられるのだった。

 気が付くと真っ暗闇だった。

 その上、何かに圧迫されていて焦る。

 でも、すぐに状況を思い出した。

 兜と鎧を着けたまま眠ったんだった。


「ふぅ」


 落ち着くために息を吐く。

 吐いた息が反響する音が聞こえた。


 意識を外に向けてみる。

 慌ただしい様子が聞こえてきた。

 眠ってからそれほど時間が経ってないのかな?


 更に意識を広げてみる。

 邸宅の外には、いくつもの魔術の光が固まっている。

 これは捕らえられた『蜂』の人たちか。


 少し離れた場所には小さいけど強い光もあった。

 これはルキヴィス先生の左手の光かな?

 マリカっぽい魔術の光はない。

 彼女は無事に帰ったのだろうか?

 殴られて胃液か何かを吐いていたので心配だ。


 身体を動かすと、筋肉痛な上に()りそうになっているのが分かる。

 痛たた。

 かなり無理したからな。


 痛みもあって意識がはっきりしてきた。


 今度は空間把握で部屋の周辺を探ってみる。

 ドアの前に背の低い人影があった。

 子供?


「視聴者の皆さん、どなたかいますか?」


 小声で聞いてみた。


 ≫いるぞ≫

 ≫おはよう?≫


 コメントが返ってきたので、私が眠ってどのくらい時間が経ったのか聞く。


 ≫部屋に入って3時間くらいだな≫

 ≫今、そっち時間で午後10時過ぎだ≫


 まだ、そんな時間なのか。

 私はトイレに行こうと思って身体を起こした。

 ギギギときしむように筋肉が痛い。

 なんとか立ち上がり、外に出る。


 ドアの前に居た少女に声を掛け、『低い声』でトイレに行きたいことを伝えた。


 周りでは忙しそうな音が聞こえている。

 外に出て行くお手伝いさんもいる。

 指示をしているのは威厳のある老婦人だ。

 アーネス皇子が手を振っていた人だろうか。


 その老婦人が私に近づいてきた。


 優雅な動きで余裕すら感じる。

 忙しいはずなのにこの優雅さ。

 これが貴族の振る舞いというものなのだろうか。


「ご機嫌よう。十分に休めておりますか?」


「は、はい」


 彼女の声には芯があった。

 滑舌もはっきりしている。

 偉い人度数がすごい。

 まずい、言葉遣いが分からない。


「お、お世話になっております――」


 ど、どうしよう。

 自己紹介しようと思ったけど、この姿での名前がない。

 さすがにアイリスと名乗る訳にはいかないだろうし……。


「申し遅れました。わたくし、当主の母のクァトラと申します」


 視聴者に助けを求めよう。

 私は慌てて兜の隙間の視界へ手のひらを見せてみた。


 広間とはいえ(あか)りは僅かで暗い。

 この手が視聴者に見えるかどうか。


「ご丁寧にありがとうございます。兜を被ったままで失礼しています。私の名前は――」


 アイリウス?

 ――さすがにアイリスと似すぎでバレる。

 あっ! あっ!


 ≫これ俺らに名前考えて欲しいってことか?w≫

 ≫いやいやギリギリすぎて無理だろw≫

 ≫ラキピウス≫

 ≫アイリウス?≫

 ≫ラキピはともかくラピウスはありですよ≫

 ≫ラピは岩というラテン語です≫

 ≫岩の人という意味になりますね≫

 ≫ラピスラズリもここから来ています≫

 ≫岩w≫

 ≫ペトロも岩だしいいんじゃね?≫

 ≫アイリスはラッピ派じゃないのにw≫

 ≫名前ってそんな単純でいいのか≫

 ≫大スキピオだって『アフリカの人』だからw≫

 ≫スキピオ・アフリカヌスか≫


「――ラピウスと申します」


 怒濤のコメントの中、名前を拾ってギリギリ名乗った。

 ……危な!

 今日最後のピンチがこんな形で訪れるとは。


「ラピウスさん。話によると貴方のお陰で殿下はご無事だったとか。感謝いたします」


 丁寧な口調だ。


 ≫お礼は言いつつも頭は下げないのなw≫


 言われて見ると確かに直立不動のままだった。

 その後、簡単なやり取りをする。

 マリカのこともそれとなく聞いてみたが、カクギスさんと一緒に帰ったみたいだ。


 私はトイレに行くと伝えて、話を切り上げた。


「何か私に出来ることがあったらお手伝いします」


 最後にそう伝えたところ、少し間があって「今の貴方に出来ることは休むことです」とにこやかに伝えられた。


「重傷の方などはいないのですか?」


 思わずそう聞いてしまう。

 失礼だったかなと考えていると、ひと呼吸置いて彼女は話し始めた。


「なるほど。では、こう考えてはいかが? 再び賊が襲ってきたら、どの方が戦力になるでしょう?」


 言われた通り考えてみる。

 増援の『蜂』は八席クラス並に強かったと思う。

 そうであれば戦力になるのは私かルキヴィス先生くらいだろう。

 カクギスさんやマリカは帰ったという話だし。


「考えましたか? では、その方が万全であればあるほど、皆が生き残る可能性が高まるとは思いませんか?」


 ≫あー≫

 ≫アイリスが万全だと生き残る可能性アップか≫

 ≫貴重な戦力を雑用で疲弊させたくないとw≫


 そ、そういうことか。


「私の発言は考えの浅いものでした。皆のためにも休むことにします」


「あら? 察しが良くて素直な子は好きですよ」


 ≫このばあさんって皇妃の母親だろ?≫

 ≫似てないなw≫

 ≫あの皇妃の母親なのかw≫


「ありがとうございます。戦力が必要になりそうなときはすぐにお呼びください」


 こうして、私はトイレに行ってから再び眠りにつくのだった。


 翌朝。


 カトー議員がやってきたということで、お手伝いさんが呼びに来た。

 私に昨日のことを聞きたいという話だ。

 アーネス皇子との話し合いは既に済ませているとのことだった。


 応接間に通される。


「おはよう。よく眠れたか?」


 座ったままのカトー議員が私に声を掛けてきた。

 その一歩後ろにはドミトゥスさんが立っていて、彼も挨拶してくれた。


 更にもう1人、知らない人がいる。

 彼も座っていた。


 カトー議員と同じか少し若い。

 30代半ばくらいかな?

 肌は黒く、服の下から覗く筋肉は(たくま)しい。

 落ち着いた瞳をしていた。


「おはようございます。おかげさまでよく眠れました。ドゥミトスさん。昨日はありがとうございます」


「ぷっ。どうしたその声。声変わりか?」


 気を遣って『低い声』で挨拶したのにこの性悪な議員はなんてことを。

 わざわざ低い声を出したのは、部屋にお手伝いさんや知らない人もいるからなのに。


「ええ。そんなところですね」


「すまんが外してくれ」


 カトー議員がお手伝いさんにそう言うと、彼女は出ていった。


「さて。声と共に兜も外していいぞ。オレの隣に居るのは親衛隊長官様でお前の正体もご存じだ」


 長官!

 どのくらいの立場か知らないけど、いかにもすごそうな肩書きだ。


「では、失礼します。洗ってもいない顔を晒すのは恥ずかしいのですけどね」


 地声で言って私は兜を脱いだ。

 ふぅ。

 息苦しさから解放される。


「本当に普通の少女なのだな」


 長官がつぶやく。


「へぇ、お前の『普通』というのは随分敷居が高いな。こりゃ下につく兵士も大変だ」


 カトー議員は大げさに驚いてみせた。

 本当に誰にでもこういう態度なんだな……。


「いえ、そういう意味では」


「では、どういう意味だ?」


 カトー議員はニヤニヤしてる。


「――分かりました。このような華奢で美しい少女が我々を救ったとは信じがたい。これでいかがですか?」


「オレに聞かれてもな。言うべき本人に言わないと!」


 長官はどん引きしてる。

 もちろん私もだ。

 ドゥミトスさんは苦笑しながらも見守っている。


「失礼を承知で言います。話を先に進めてください」


 私は思わず口にした。


「すまんすまん。場を(なご)ますためにちょっぴり茶目っ気を発動しただけだから」


 絶対、嘘だ。

 楽しんでやってる。


「見え見えの嘘はご勘弁を」


 長官とシンクロした!

 思わず親近感が湧いてしまう。


「まあ嘘なのは良いとしてだ。紹介するぞ。こちら親衛隊のビブルス長官だ」


「ビブルスだ。君のことはカトー議員やエレディアスから聞いている」


「よろしくお願いします。アイリスです。あ、ただ先ほど、クァトラさんに会ったときに『ラピウス』と名乗ってしまいました。親衛隊の臨時兵士としては『ラピウス』でお願いします」


「ラピウス? なんでまた」


 カトー議員が口を挟んでくる。


「私の故郷由来です」


「ふうん」


「分かった。覚えておこう」


 興味なさそうなカトー議員とは違い、ビブルス長官が笑いかけながら頷いてくれる。

 良い人だ。


「さて。今回の話をしようじゃないか。皇宮側での戦闘の話はオレからしよう」


 話によると皇宮はかなりの被害だったそうだ。

 挟撃したつもりが逆に『蜂』に挟撃されて被害が大きくなったらしい。


 それでも、『蜂』がすぐに皇宮から撤退したため、名目上は守り切れたことになった。

 撤退というか、この邸宅、つまり皇妃の実家を攻めることを優先したんだろうな。


「動きから見て何か連絡手段があると思うんだが、その方法までは分かってない」


「あ、その連絡手段分かりますよ」


「なに?」


「魔術で空気をコントロールして空に特定の形を浮かべることで連絡しあっているようです」


「空に――か。なるほど。距離はどのくらいまでいけるか分かるか?」


「少なくともこの邸宅から皇宮の間の連絡は見えました。連絡係も居るようですね」


「最低でもその距離か。形の種類と数は分かるか?」


「いえ、それまでは分かりません。形があると分かったのは最後の方なので」


「まあ空中で見間違えないように出来る形なんて限られるか。複数の形を組み合わせることもあるかも知れないが」


 カトー議員はブツブツと独り言のように言いながら考えをまとめているようだった。


「それは魔術が使えれば誰にでも見えるものなのか?」


 続けてカトー議員が聞いてくる。


「いえ、空気と言ってもその中の一部だけを使っています。風の魔術が使えても、普通は見えないと思います」


 『蜂』が連絡に使っている『酸素』のことは説明が難しいので省いた。


「ほー、よく出来てるな。まあ、連絡手段の存在が分かっただけでも大きいか。それが見えるのはお前だけなんだな?」


 一瞬、マリカのことを言うかどうか迷った。

 カトー議員のことはある程度信用してるけど、全面的に信頼している訳じゃない。

 でも、今後マリカが『蜂』に狙われる可能性もあることを考えると助けは欲しい。


 私は迷った挙げ句、マリカ本人に確認してからカトー議員に話すことに決めた。


「私だけではありません」


「へぇ? 誰だ」


「本人に確認して問題ないようならカトー議員にも話します」


「おい、君!」


 焦ったようにビブルス長官が私に声を掛けてきた。


「長官、慌てるな。物事には順序というものがある。――アイリス、分かった。オレの方もそれまで詮索は止めることにしよう」


 彼はニッと笑った。

 可愛げなんてなく、ただただ性格が悪そうだ。


「それでビブルス長官。ここまでで何かあるか?」


「あります」


「言ってみてくれ」


「アイリス。君はその連絡手段を使えるのか? 魔術について、無類の才能を持っていると聞くが」


「いえ、残念ながら。その糸口すら掴めていません」


 そもそも酸素分子と窒素分子の区別が付かない。

 現状、区別がつかないものを魔術でコントロールすることはできない。


存外(ぞんがい)に面白い回答を得られたな。長官、他にはあるか?」


「いえ、他にはありません」


「分かった。では『蜂』の戦力の実際のところについてに移るぞ」


 聞かれたのは、親衛隊と比べて『蜂』の個々の強さの差がどのくらいかというものだった。


 親衛隊と『蜂』との比較は難しいけど、剣闘士のレベルとの比較なら大体分かる。

 『蜂』の通常の戦闘員はカエソーさんかそれ以上のパロス階級並で、あとから来た2人組の何組かは八席並だと思う。


 素直にそれを伝えた。


「ドゥミトス。剣闘士の強さを親衛隊に置き換えられるか?」


「可能です」


「長官の顔色は(うかが)わずに言ってみろ」


「はい。親衛隊内で最強と名高いエレディアス隊長を第八席前後の実力と見積もります」


「なるほど。続けてくれ」


「その他の隊長・副隊長クラスがパロス程度。隊員はルディアリウス上位といったところでしょう。個々の戦力としては残念ながら――」


 ルディアリウス上位ということは、ゲオルギウスさんとかロックスさんくらいか。


「戦闘の結果から言ってもそんなところだろうな。オレも想定が甘かった」


「いえ。結局、待機していた我々の出る幕もありませんでした。想定は十分と思われます」


 ドゥミトスさんが言った。

 我々?

 彼も隊を率いて待機していたということだろうか?

 ルキヴィス先生以外にも隠し玉があったとは。


「それを含めてギリギリだった。ドゥミトスたちは今後のことを考えると使いたくない手札だったしな。結果から言えば、『戦女神(いくさめがみ)』様に救われた形ということだ」


「戦女神?」


 ビブルス長官が声を漏らす。


「そこのお嬢さんの二つ名だ」


 思わず苦笑いしてしまった。


「なんだアイリス。女神呼ばわりは不満か?」


「いえ、恐れ多いというか」


「その内慣れる。人なんて呼ばれ方に引きずられて振る舞うようにもなるしな。もちろん、オレも協力する」


「『もちろん』の意味が分かりませんが……」


「面白そうなことには積極的に首を突っ込んでいきたいから、オレも協力するぞ! ってことだ」


「満面の笑みでのご説明ありがとうございます……」


「カトー議員に確認させていただいて構わないでしょうか?」


 ビブルス長官が間を置いて切り出した。


「ああ、なんだ?」


「彼女に救われたというのはどういう意味なのでしょう?」


「報告はまだ上がってきてないのか?」


「はい」


「では話半分に聞いてくれ。これは今朝『協力者』から聞いた話なんだが、『蜂』の7割以上を彼女1人で倒している」


「7割!? 先ほどの話からすると『蜂』は親衛隊よりも強いとの話でしたが……」


「話半分に聞けと言っただろう」


 ニヤニヤしながらカトー議員は言った。


「それに親衛隊より強いというのもあくまで個人個人の話だ。親衛隊についてはオレもよく知らないが、集団での作戦行動となると違うのだろう?」


 ≫いや、絶対知ってるよな、このオッサンw≫

 ≫一応、長官のメンツを考えてるのか?≫


「ところでドゥミトス。待機していたお前の隊80人と『蜂』100人が戦ったらどうなっていた?」


「暗闇であったことを加味(かみ)すると苦戦は(まぬが)れなかったでしょうね」


「アイリスが討伐軍に参加していたのは長官も知っているだろう。そのときの活躍はこんなものではなかったからな。こいつが全てをひっくり返したと言って良い」


 ≫めちゃくちゃ持ち上げてきたなw≫

 ≫ある意味正確な評価だとも言えるがw≫


 ビブルス長官が私を呆然と見てきた。


「そういう人間がお前の下に付く。覚えておいてくれ」


 下に付く?

 私がビブルス長官の下に?

 ――え? 


「ちょっと待ってください。下に付くってボクがビブルス長官の下にですか?」


「一人称が戻ってるぞ」


 カトー議員は足を組み直した。


「し、失礼しました」


 どうして一人称変えたこと知ってるんだ?

 あっ、ドゥミトスさんに聞いたのか?


「まあ、いきなり親衛隊に配属となると驚くのも無理はない」


 聞き間違いじゃない。

 カトー議員は私を親衛隊に配属させるつもりだ。

 いや、待て。


「もしかしてアーネス皇子の希望を聞きました?」


 皇子の希望というのは、私を専任の護衛にしたいという話だ。


「ご明察(めいさつ)


 またニヤニヤしてる。


「考えてもみろ。今回、オレが親衛隊を巻き込んでしまったが故に、彼らへの大きな被害を招いてしまった。親衛隊がピンチだ! 嗚呼! オレはなんということをしてしまったのだ!」


 ≫何か始まったぞw≫

 ≫心臓強いな、このオッサンw≫

 ≫変に権力持ってるだけタチ悪いなw≫


「しかも聞くところによれば、エレディアス隊長自らが皇子専属の護衛をしているという。今後忙しくなるというのに他の者は信頼できない! しかし、そこに現れたのが、な、なんと皇子に信頼されている謎の新人! そう君だよ、ラピウスくん!」


 ノリノリだ。

 はっきり言って(うす)ら寒い。

 でも権力が故に誰も突っ込めない。

 本当にタチが悪い。 


「あーそういう訳でビブルス長官あとはよろしく」


 最後だけめちゃくちゃ適当に長官に振った。

 彼が可哀想になってきた。


「そもそも女性でも親衛隊になれるのですか?」


 私は長官に向けて言った。


「正式な親衛隊にはなれないが、臨時であれば特に規定はない。ただ――」


「皇子のこともあるからな。まあ、男装はして貰う」


 言い淀んだ長官の言葉をカトー議員が引き継ぐ。


「だ、男装?」


「安心しろ。お前も昨日会ったラデュケにやらせる」


「確かにラデュケなら出来そうですが……」


「なんならウチに住んでもいいぞ。今日にでもお前は解放奴隷になるし」


 何か外堀が完全に埋められてる気がする。

 ――ふぅ。

 こっそりとため息をついた。


「ビブルス長官。失礼ですがお聞きします。私が臨時とはいえ親衛隊となり、皇子を護衛するということで本当に良いのですか?」


「残念ながら私にとっても良い話なのだ……。『蜂』の驚異がいつ何時あるかも知れない。人手も足りない。それに対抗できる兵士が恥ずかしながらいない。何より今回のことをうまく対処できなかった責任が私にはある」


「そうですか……」


 彼も苦労性のようだ。


「分かりました。――お任せします」


 私は半分諦めて言った。


「よし任せてくれ。いやあよかった。じゃ、今日早速一緒に議会に行こうな。英雄様のお披露目会だ。ラデュケにとびきりの女神に仕立てあげさせるから安心していいぞ。全く議会デビューが待ち遠しいな!」


「え゛」


「公的な場では英雄『戦女神』。仕事は皇子の専属護衛ラピウス。その正体は、な、なんと女剣闘士アイリスなのであった」


 呆然とする私に向かって、ドゥミトスさんが哀れみの眼差(まなざ)しを向けてくる。

 目が合うと、諦めろとでも言わんばかりに首を横に振られてしまう。


 ≫見捨てられたかw≫

 ≫かわいそうw≫


 コメントまで!

 更に、ビブルス長官に至っては目も合わせてくれないのだった。

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