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第92話 蜂の女王

前回までのライブ配信。


皇妃の実家に到着した皇子のアーネスと親衛隊。『蜂』の少年に襲撃を受け、親衛隊は隊長のエレディアスを含め被害を受けるが、アイリスが戦い圧倒して捕らえる。


その後、100人を超える『蜂』が集まってくる。また、長身の男が現れ、捕らえていた少年は逃がされる。アイリスは単独で『蜂』と戦うことを決意する。


再度少年を一撃で倒したアイリスは、集まっていた『蜂』数十人を突風の魔術で吹き飛ばし倒す。そこにマリカとカクギスが彼女を助けにやってくるのだった。

 マリカとカクギスさんが来てくれた。

 簡単な言葉を交わす。

 真っ暗闇で2人の姿が見えないのが残念だ。


「囲まれているようだな。いや、囲まれていた、か。親衛隊はどうなっておる?」


 カクギスさんが話を本題に移す。


「26人の死傷者が出ました。戦えるのは54人です。『蜂』の2人にやられました」


 『蜂』の2人というのは少年と長身の男だ。


「現状、数の上では同等ということか」


「え、なんで分かるの?」


 マリカがカクギスさんに聞いた。


「魔術だ」


「魔術って空気の動きで知るってのだよね? 私も出来るけど敷地全体とか無理なんだけど?」


「ちょいと工夫がいる」


 カクギスさんって、私やマリカよりレベルの高い空間把握を使えるんだっけ。

 私も『蜂』だけは魔術で光って見えてるので正確な場所が分かるんだけど。

 それにしてもマリカとカクギスさん仲良いな。


「話を戻す。我々に指示を頼めるか? 来たばかりの我々よりもお主が指示した方が良いだろう」


「私もそう思う」


 私は潜んでいる『蜂』の様子を探った。

 彼らは身を隠しながら警戒している。

 さっきの私の派手な魔術の音で動きを止めたのかな?


「分かりました。まずは周りの敵を倒します。カクギスさんは右側を担当してください。私は左側を担当します」


 左側にはあの長身の男も居る。

 私が行った方がいいと思う。


「私は?」


「マリカはここで倒れてる敵の様子を監視しながらカクギスさんのサポートをお願い」


「うん。分かった」


「ふむ。して、倒したあとはどうする?」


「ここの逆側、邸宅の裏で合流しましょう。そのあとは親衛隊にも合流して2人を紹介します。敵と間違われても困りますし」


「それは問題ない。敵と間違われないように証書は2人分持たされている。親衛隊長官のものだな」


 ずいぶん用意がいいな?

 カトー議員の手回しかな?


「私なんて無理言って参加させて貰ったのに証書が用意されてて驚いた」


 あー、カトー議員っぽい。

 私の個人的な関係まで計算に入れるとかあの人しかいない。

 それにしても、マリカは剣奴なのに良く証書なんて出せたな。


 一瞬だけマリカを巻き込まないで欲しいとも思ったけど、よく考えたら誰も彼女をこの戦いに参加させようなんて強制してない。

 全て彼女の意志ということに気づいた。


 私のために危険を犯してくれるなんて感謝しかない。

 『ありがとう(みず)』以外に感謝しかないものがあるなんて。


「さて、行くとしよう。最後に1つ聞いて良いか?」


 改まった声色(こわいろ)でカクギスさんが聞いてきた。


「はい」


「敵は殺しても構わんのか?」


 ――え。

 思わず固まってしまう。

 言葉の内容を理解する前に感覚が遠くなる。

 それでもなんとか意味を理解した。


 私が人を殺す指示をする。

 それは私が命を奪うということに等しい。

 反乱軍をあれだけ捕らえておいて今更と思う気持ちもある。


 でも、どうしてカクギスさんは私にそんなことを聞いたんだろう。


「お主を悩ませるつもりはないぞ」


 カクギスさんが私が何も応えないことを気遣ってか聞いてきた。


「確認に過ぎん。お主は人が死ぬのは嫌なのだろう?」


 あ、ボクの価値観を尊重してくれたのか。

 でも、そもそも価値観なんて立派なものじゃない。

 我が儘に近い。


 2人を危険に合わせることとボクの我が儘。

 優先順位を考えれば迷うこともない。


「尊重してくれてありがとうございます。でも、大丈夫です。必要なら――殺してください。それがボクのいえ、私の指示です」


 言い切った。

 現代日本人として何かを超えてしまった気がする。

 適度に流れていたコメントも静かになった。


「ふむ、良い回答だ。さて、ちょうど動き始めたな」


「ですね。では、合流地点で会いましょう」


「ああ」


「う、うん。アイ――貴女も気をつけて」


 2人と別れた。


 それから、特に苦戦することもなく、周りの『蜂』と思われる者たちを無力化していく。


 初手はやっぱり突風の魔術で全体を吹き飛ばした。

 次に魔術無効(アンチマジック)を使わせないように吹き飛ばしながら、剣で四肢を貫いていった。


 剣で刺す瞬間は何も考えないようにしている。


 そうして、全員倒して合流場所に到着した。

 2人は既に居る。


 カクギスさんの方は、マリカが低酸素の魔術で全員倒してしまったそうだ。

 なんでも、呼吸が見えるので吸う瞬間、ピンポイントで口の周りの酸素を減らしてみたらしい。


 いや、それ怖いんですけど。


 不意を突いたら(かな)う人いないんじゃないだろうか?

 『蜂』よりも暗殺向きな気がする。

 神の加護持ちのマクシミリアスさんには効かないかも知れないけど。


「そういえば、門の近くの建物の上に大きなサンソの固まりがあるんだけど、あれ何か分かる?」


 マリカが私に聞いてきた。

 あれってやっぱり酸素だったのか。

 彼女以外にも操れる人が居るとは。


「あの酸素で『蜂』が連絡を取り合ってるみたい。今、敵の増援が近づいてきてるからまたあとで説明する」


「ほう、増援か。迎え撃つとしよう。距離は分かるか?」


「正確には分かりませんが、1組目が300から600パッスースです」


 500mから1kmくらいだ。


 ≫早速パッスス使いこなしてるな。天才か?≫

 ≫メートルを3分の2すればいいだけだろw≫


「複数か。他は?」


「2組目はその数倍の距離です。3組目は今のところいません。両組とも共に2人です。恐らく建物の屋上を伝ってきてます」


「面白い。方角は」


「1組目は門を向いた状態で右側ですね。2組目は門の方向です」


「ふむ。では右に行くか。屋上を伝ってきているなら壁を乗り越えてくるであろう。歯ごたえがあるといいがな」


 不穏なことを言うカクギスさんを連れて右の壁近くに移動した。


 暗闇の中、呻き声がする。

 月が雲に隠れていて、本当に何も見えない。


 呻き声を発しているのは、私が倒した『蜂』の人たちだろう。

 両足の太股に剣を刺してあるので歩くことも出来ないと思う。


「だ、大丈夫? 襲ってこないよね?」


「奴らから最も離れた道筋を進んでおるようだぞ?」


「それは何となく分かるんだけど」


「前方僅かに右! 壁の上から来ます」


「風の魔術を使っておるな」


 カクギスさんは嬉しそうに薄い魔術を浮かび上がらせた。

 なんだ?

 飛んで来た2人の風の魔術が止んだ。


 まさかカクギスさんが魔術無効(アンチマジック)を使った?


 今まで誰かが魔術無効(アンチマジック)を使ってるのって見えたことないのに。


 2人は空中でバランスを崩して落ちてくる。

 落ちた隙を狙ってか、カクギスさんが向かっていった。

 しかし、そのカクギスさんを察知したのか転がるように着地すると同時に2手に別れる。


 4、5メートル上からバランスを崩したのに持ち直した。

 2人とも運動能力が高い。

 彼らは立ち上がると素早く腰から2本の剣を抜く。


 少年と同じく、この2人も二刀流なのか。


「マリカ、下がって」


 2人の魔術の光の強さはかなりのものだ。

 少年より少し劣るくらいか。

 でも、形から見て2人とも大人の男に見える。

 1人は身体ががっしりして、もう1人は痩せている。


 がっしりした1人はカクギスさんとの戦いに入った。

 私は痩せている方に向かう。


「なんだこれは」


 痩せた男が呟いた。

 月も隠れて真っ暗闇なので、空間把握で仲間が倒れている状況を知ったかな。


「おい! 貴様らは選ばれしノクスの子だろう! 立て! 我々、災い(メルム)が来てやったぞ!」


 ノクスの子? 我々? メルム?


 知らない言葉だ。

 でも関係ないか。

 私はすぐに決着をつけるために、大声を上げた男に身体を投げ出した。

 私に反応して、彼の攻撃の電子が見えた。


 右の斬撃。


 私は僅かに左に動く。

 剣が地面を叩いた。

 よし。


 彼の太股に剣を突き立てようとすると、左の剣を横薙ぎにしてくる電子が見えた。

 一旦、重心線の前に剣を置き、身体を移動する。


 ギンッ。


 ぐっ。

 なんだこの力。

 凄まじく強い力ではね飛ばされた。

 身体ごと持って行かれる。

 受けた手が痺れている。


 ――強い。


 しかも、痩せた男の言葉のせいなのか、周りの『蜂』たちが這い寄ってきている。

 男が一気に飛び込んで斬り掛かってきた。


 重心線の前に剣を立てて置く。

 剣がぶつかり力が入る。

 ぐっ。

 やはり重い。


 上半身を持って行かれそうになりながら後退すると、そこへ更に追い打ちを掛けてきた。


 左で斜めに斬ってくる。

 剣で受ける。

 受けた衝撃が膝までくる。

 すぐに右の突きが来る。


 マクシミリアスさんほどじゃないけど、付け入る隙がない。

 二刀流だからというのもある。

 休まず攻撃しているのに疲れる様子もない。


 しかも、いつの間にか近くに這い寄って来ている『蜂』が居た。

 まさか誘導された?


 ただ、その『蜂』は力なく地面にうつ伏せに落ちる。

 一瞬、魔術の反応があった。

 たぶんマリカが低酸素にしたんだろう。


 魔術無効(アンチマジック)が解除されたのか?


 私はすぐに相手との間に突風の魔術を使った。

 発動しない。

 魔術無効(アンチマジック)の範囲の内と外ということかな?


 男から距離をとった。

 離れながら、カクギスさんの戦いに意識を向ける。

 カクギスさんが、がっしりした男を防戦一方に追い込んでいた。


 さすがカクギスさん。

 圧倒してるな。

 それでも倒し切れてないところを見ると、相手も強いのだと思う。


 意識を痩せた男に戻す。

 彼はじっとしていた。

 ただ、意識は私に向いている。

 なんとなく(いきどお)ってるというのが分かった。


 すると男の真後ろだけどかなり離れた場所に空気の一部が圧縮される。

 たぶんマリカの酸素の圧縮だ。

 直後に突風の魔術が発動した。


 ボフッ。


 その風は正確に痩せた男に向かう。

 同時に彼は左に大きく避けた。

 その場から一気に3メートルは跳んだ。


「――今の魔術を使ったのは誰だ」


 彼は静かに呼びかける。

 その隙を狙って突風の魔術を使ってみた。

 マリカが使った場所と同じところだ。

 でも発動しなかった。


 彼も魔術無効(アンチマジック)を使いだしたのかも。


「そちらの少女かと」


 不意に声がした。

 声の主は――長身の男だ。

 こちらに向かって歩いてきている。


「なぜ貴様がここに居る」


「子守ですよ」


「ふん。いいだろう。女はノクスかも知れん。捕らえておけ」


「残念ですが『出来損ない』には無茶な話です」


「ちっ」


 舌を鳴らすと痩せた男が私に斬り掛かってきた。


 くっ。


 相変わらず跳躍力も斬撃も人間ばなれしている。

 肩の硬直をなんとかしないと。

 筋肉のない女の子を意識する。


 痩せた男の攻撃を受けると身体ごと弾かれる。

 避けても左右の連続攻撃が速い。

 ダメか。


 いや、まだだ。

 腕は肩甲骨まで。

 肩の骨はそれをぶら下げているだけ。


 肩甲骨をぶら下げている肩の筋肉を意識し始める。

 意識すると攻撃を受ける直前から硬直しているのがよく分かった。


 もう1組が門を抜けた。

 更にかなり遠くに魔術の反応が3つ見えた。

 単独の反応と2人組だ。


 しかも単独の方の光は強烈だった。

 範囲は広くないけどケライノさん並に強い。

 『闘神』ゼルディウスさんよりも輝きが強い。


 マズい。

 せめて今のこの状況をなんとかしないと対応できなくなる。

 でも、痩せた男1人の連続攻撃にすら対応しきれていない。


 肩が力むたびに電子が見えて憎々しく感じる。


 あれ? いや、ちょっと待て。

 この電子を止めてしまえばいいんじゃ?


 身体の中に集中する。

 強い斬撃が斜め左から振られる。

 腕をぶら下げている肩の筋肉への電子を止めた。


 止めるのは肩の筋肉だけで、腕そのものの筋肉や剣を受ける瞬間の指の締めはこれまで通りだ。


 ギンッ。


 明らかに身体に来る衝撃が変わった。

 後退する距離も短い。

 しかも硬直しない。


 何度か攻撃を受けながら様子を確認する。

 問題ない。

 それどころか余裕がある。


 私は受けるときに角度を変えながら彼に近づいていった。

 連撃の隙間に入っていけるので、今度は相手が少しずつ後退し始める。


 肩の筋肉を使ってないだけなのに、腕が少し遠くに感じる。

 それ以上に自由だ。


「き、貴様」


 近づくと彼がつんのめった。

 その隙を狙って体当たりする。

 尻餅をついた。

 彼は転がるようにして距離を取る。


 もう1組が到着した。

 2人ともやっぱり魔術の光が強い。


「これはどういう状況だ? 魔術も使えん」


 彼らは隙なく構えている。


「グ……」


 そのとき、離れた場所ではちょうどカクギスさんが相手を倒したところだった。

 倒した相手は地面に倒れて動かない。

 殺してしまったんだろうか。

 でも、魔術の光は消えていない。


「女が1人居る。絶対に殺すな。ノクスかも知れん」


「なぜ分かる」


神気(エーテル)の魔術を使った」


「――確かか」


 カクギスさんの場所から風の魔術の反応。

 彼は一気に新しい組の話していた1人に斬り掛かった。

 しかしそれは受け止められる。


「ふん。敵を前におしゃべりとはな」


低劣(ていれつ)な」


 私もその隙を狙って低い体勢になり、新しく来たもう1人の太股を狙った。


「見えてないとでも思ったか」


 私にまっすぐ剣を振り下ろしてくる。

 もちろん、私の攻撃が見えてることは想定済みだ。


 電子が見えた瞬間に、剣を避け蹴りを放つ。

 ただ、それは膝で受け止められた。


 その間に痩せた男はマリカの元に向かった。


「娘、敵が行ったぞ!」


 カクギスさんが短く声を上げる。

 マリカは持っていた剣を構えた。

 1撃目は受け止めたが、2撃目、3撃目と明らかに受け切れてない。


 マリカ!


 門の外では、ケライノさん並のあの強烈な光も迫ってきている。

 さっき見え始めたばかりなのにもう500mくらいの距離だ。

 これまでとは段違いに速い。


 私はマリカの元に向かおうとするけど、相手も強く隙が出来ない。

 カクギスさんも手が放せないようだ。


 マリカがくの字に折れて地に倒れた。

 せき込む声が聞こえる。


 その声で私の頭が急速に冷えていく。


 僅かな動きで敵を追いつめ、兜へ横薙ぎに1撃入れた。

 敵がよろめいたところに足を狩り、地面に落ちた瞬間に地面と剣で挟むように兜を攻撃する。

 でも、最後の兜への攻撃は避けられた。


 その出来た隙でマリカの元に向かう。


 マリカを起きあがらせようとする痩せた男に向かって剣を振るった。

 私の剣は受け止められる。

 すぐに背中からさっきまで戦っていた相手が迫ってくる。


「まずはこの兵士から倒す」


 兵士とは私のことだろう。

 私は2人に挟まれる形になった。


 絶対絶命だ。


 こんな状況なのに私自身の口角の筋肉が動くのが分かった。

 肩が力まなくなったことで、どれだけ強くなったか試してやる。


 前後にいる2人はジリジリと追いつめてきた。

 痩せた男が何かのハンドサインを示す。


 私はハンドサイン中の彼の前に突きを出した。

 彼は慌てて受けようと剣を合わせようとする。

 でも突きはフェイントだ。


 片手に持ち替えて彼の手に斬り掛かる。

 肩の力みがないからか斬れ味がいい。


「ぐっ」


 手応えがあった。

 剣が落ちる。


 背中側の新しく来た男が剣を振ってくる。

 右の縦の斬撃。

 私はそれを身体の回転だけでギリギリ避けて、腕に向けて剣を振るった。


 その攻撃は左の剣で流される。

 私は流された剣自体を支点に身体を前に潜り込ませた。

 肩に力が入ってないからか、相手にぶつかることなく動ける。


 剣の柄で新しく来た男の顎をかち上げる。

 もつれた。

 相手が抱きついてくる手を避け、逆側に抜ける。


 複数相手の場合は、1人にくっついて他の相手の盾にする。

 巨人との戦いで教えて貰ったやり方を思い出す。


「ノクスだけでも確保する」


 痩せた男が言った。


「――分かった。時間は稼ぐ」


 しまった。

 私と離れた痩せた男がマリカに向き直った。

 マリカが剣を持ったまま立ち上がる。


「――抵抗するな」


 マリカの剣は一瞬ではね飛ばされた。

 彼は剣を納めマリカの腕を掴む。

 マリカは股間を蹴上げる。

 その蹴りは膝で防がれた。

 次に腕の防具のない箇所に噛みつく。


「貴様!」


 マリカのお腹に膝が入った。


「――かはっ」


「大人しくしてろ」


「げほっ――げほっ」


 マリカの兜を強引に脱がし、髪を引っ張り立ち上がらせる。


 怒りでどうにかなりそうだった。

 奥歯がギリギリと(きし)む。

 分かってても止められない。


 くそ。


 目の前の男を焦って倒そうとしてしまう。

 冷静に守りに徹している男に苛立つ。

 それが余計に膠着状態を生んでいるのに、分かっていても自分をコントロールできない。


 そんな精神状態ですら無視して割り込んでくるものがあった。

 あの強烈な光だ。

 光が門を抜けたことに気づく。

 ゾクッと鳥肌が立った。


 マリカはまだ抵抗している。


「無駄だ」


 痩せた男の拳が彼女のお腹にめり込む。


「ごはっ、げぇ」


 マリカの口から何かの液体が吐き出された。

 その液体に魔術が発動する。

 弾けるように2手に別れた。

 1つは地面へ、もう1つは――。


 ぴちゃ。


 液体が痩せた男の顔に飛んだ。

 兜の隙間の頬辺りだ。

 量こそ僅かだけど勢いはある。

 男の顔を仰け反らせた。


「ゴミが!」


 男が剣を振り上げた。

 マリカに斬り下ろすつもりだ。

 私は目の前の相手に突きをして、そのまま剣を放り投げた。


 驚いた相手は身体を固めて硬直する。

 私は相手の横を通り抜け、駆け抜けた。

 痩せた男の振り上げた剣が振り下ろされる。

 マリカに体当たりしても間に合わない。


 とどけ!


 剣の軌道に向かって飛び込み、手を伸ばした。

 軌道を変えてやる!


 その私の後ろから地面を走る凄まじい魔術とともに、例の強烈な光が横切っていった。


 ドッ、ガッ!


 マリカに剣を斬り下ろした痩せた男がそのままの形で吹き飛んでいく。

 地面に落ちても転がり続けた。

 数十メートルは転がっただろうか。

 そのまま動かなくなる。


 雲に隠れていた月が顔を出す。

 男が立っていた。

 月明かりに照らされた逞しい背中のシルエット。

 そして、左手に輝く強烈な魔術の光。


「よく頑張ったな」


 今までに聞いたことのないような優しげな声。

 この人のことを私もマリカも良く知ってる。


「もう大丈夫だ」


 私たちの師匠、ルキヴィス先生がそこに立っていた。

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